は胆を潰した。

     恐ろしい予感

 博士は、仕損じたりと思ったのか、こんどは望遠鏡の鉄製の架台《かけだい》を手にもって、ぶんぶんふりまわしながら僕に迫ってきた。
「あっ、あぶない」
 もうこれまでだと、僕は思った。この怪力におい迫られては、こっちの生命がない。僕はいつの間にか右手に、鞄の中にあった博士のピストルを握りしめていた。僕は、とうとう引金をひいた。轟然と銃声一発! 博士の身体がふらりと横に傾くと、その場にどーんと仆れてしまった。
「大隅さん、よく来てくだすったのね」
 サチ子がとびついてきた。僕は息が切れて口もきけない。
「もうすこしのところで、博士に締め殺されるところでしたわ」
「ぼ、僕は、博士を撃ってしまった!」
「いいわ。だって正当防衛ですもの」
 僕は博士の仆れているそばへよって、ひざまずいた。博士の身体をゆすぶったが、博士は、人形のように伸びたきりだ。胸許にぽつんと弾丸の入った穴があいている。博士は死んでしまったのだ。
「僕は、博士を殺してしまった」
「ほんとに死んでしまったのかしら」
「胸を撃ちぬいたのですから、もう駄目でしょう」
 そういって僕はうなだれ
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