、いやに皺枯れた声で、何をいっているのか言葉の意味が一向に聞きとれなかった。
そのうちに、室内から絹を裂くような悲鳴が聞えた。
「あれえ、先生。な、なにをなさるんです」
それにつづいて、器物のこわれる音。はげしい格闘がはじまった。
僕はもう夢中だった。小屋の入口からとびこむと、博士の部屋にかけつけた。
「あれえ、人殺し。助けてえ、あれえ、大隅さん」
サチ子は魂切るような悲鳴をあげている。
僕は扉を蹴破った。そして電燈のスイッチをひねった。室内はぱっと明るくなった。
「博士、恥をお知りなさい」サチ子を部屋の隅におしつけている博士の背中に、僕は力一ぱい叫んだ。
博士は、ぎょっとしてこちらを向いた。そして獣のように吠えた。
博士はサチ子を放してこっちへ向きなおった。同時に、花罎が僕の方へとんできた。ラジオ受信機がふってきた。大きなテーブルがぶーんととんできた。それがすむと、何十貫もあるモートルが木箱かなんぞのように楽々ととんできた。
僕はあっと叫んで体をかわした。めりめりとはげしい音がして、モートルが壁をぶちぬいた。おそろしい怪力である。これが六十老人の持つ腕力であろうかと僕
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