底地震に注意せよということであるが、ひょっとすると火星の尖鋭部隊は、ロケットのようなものに乗ってどこかその辺の海底はもぐりこんでいるのではあるまいか。
 博士の手記は、まだ続いていた。僕はその先を読もうと、ふたたびページのうえに目をおとした。そのときだった。小屋の入口に、どたどたと跫音が入りみだれて近づいた。がちゃがちゃと鍵をまわす音がする。さあたいへん、博士が帰ってきたらしい。
 僕はびっくりして手帖を閉じた。扉の開く音がする。もうこれまでと思った僕は、手帖を例の鞄の中に入れるなり、鞄を小脇にかかえたまま、いそいで室外に出た。そしてまだ明けっぱなしの窓から、小屋の外にとびだしたのであった。
 博士の部屋に、ぱっと明りがついた。
 僕は、すばやく窓下によって、室内をうかがった。そこには轟博士とサチ子の二人の姿があった。サチ子はなぜここへ帰ってきたのであろうか。
 そのときいったんついた明りが、また消えてしまった。
「あら、先生。なぜ明りをお消しになりますの」そういったのはサチ子の声だ。彼女の声は明らかに慄えをおびていた。
 それに対して、博士らしい声音《こわね》で、何かいうのが聞えたが
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