がらも、一方では博士が殺人嫌疑から遠ざかったことを悦ばずにはいられなかった。
しかし事件は、迷宮入りだ。これではいけないと思って、僕は改めて博士の鞄の中を入念に調べだした。
すると鞄の一番底から、一冊の手帖が出てきた。その手帖は、表紙が破れていた。そしてその上に「死後のためのメモ」と、走り書がしてあった。
死後のためのメモ
死後のためのメモ?
死後とは、なにごとであろう。博士はすでに死を決していて、なにか遺言めいたものがここに誌《しる》されているのであろうか。僕の好奇心は、その頂点に達した。
僕は、いそいでページをくった。
ちょっと判読しがたいほどたいへん乱れた文字が書きつらねてあった。僕はそのページの表に、手提電燈をさしつけながら、むさぼるように読みだした。そこには、こんなことが書いてあった。
「死後のためのメモ。――火星の生物は、すでに地球人類にたいして、戦いを挑んでいるのだ。彼等の先遣部隊は、すでに地球に達しているのではあるまいか。ちかごろ花陵島付近の海底において頻々たる小地震が感じられるそうであるが、これこそ火星の先遣隊の乗物が到着して、地殻に衝突する
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