は、どうしてそれを先生に報告しないのですか。先生が調査して、片づけてくださるでしょうに」
「それがねえ、大隅さん」と彼女はたいへん困ったような態度で、「先生のご様子が、ちかごろなんとなくへんなのよ。だからあたし、そんなこと申し上げられやしないわ」
「ええっ、轟博士がへんなのですか。どうへんです」
 と、聞きかえしたが、そのとき僕の脳裏に電光のようにひらめいたものがあった。それはいつぞや甲板上でみた博士所持のピストルのことだった。轟博士は、あの兇器で、誰かを殺《あや》めたのではなかろうか? 絶海の孤島上の殺人の動機は? それとも、それは僕のあまりに過ぎたる思い過ぎであろうか。

     食人鬼

 サチ子の話によると、二、三日来、あの落ちついた轟博士がなんとなくきょときょとしているそうである。そして急に物わすれをするようになった。気にしてみると、妙に舌がもつれたり、また時には、じつに不可解な目つきでサチ子をじっとみつめたりするそうである。
 そういう話を聞いていると、轟博士に対する殺人の嫌疑がますます濃くなってくる。
「ねえサチ子さん。誰が殺されたんだか、それがわかりませんか」
「さあ
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