方を見た。そのとき僕はおやと思った。サチ子が、どうしたわけか、急に顔色をかえ、唇をぶるぶるふるわせているのだ。
「サチ子さん、どうしたのです。どこか身体でもわるいんですか」
 サチ子は、むやみに頭を左右にふって、それをうち消した。
「じゃ、ど、どうしたんです」
「しっ、――」
 サチ子は、唇に人さし指をたてて、なにごともいうなという合図をした。僕はそれをみてうなずいたが、心の中は急に安からぬおもいにとざされた。
(あっちへ行きましょう[#「行きましょう」は底本では「行きまましょう」])
 サチ子の目が、そういった。
 僕たちは、肩をならべて、椰子の大樹がそびえる向こうの丘の方へ歩いていった。夕陽は西の水平線に落ちようとして、なおも執拗にぎらぎら輝いて、ただ広い丘陵を血のように赤く染めていた。
「一体どうしたんですか、サチ子さん」
 僕はたまらなくなってサチ子によびかけた。
「あのね、とてもへんな恐いことなのよ」
 と、彼女は用心ぶかく四周《あたり》をみまわして言葉を停めた。
「えっ。なにがそんなにへんで恐いのですか」
「あのね、あなたにだけお話するのよ。誰にもいっちゃいけないのよ、絶対
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