汽船のなかで、親しく口をきく仲となった麗人理学士志水サチ子の値打がさらにいっそう高くなったのを覚えた。
島で観測するようになってからは、いつもサチ子は、僕が夕刻観測挺を岸辺につけるころをみはからって、必ず浪打際まで出迎えにきてくれる。
それは、僕が島へ渡ってから一週間ほどのちのことだった。その日の夕刻、観測艇が海岸に近づくと、丘のかげからサチ子の軽快な洋装姿があらわれた。
「おかえりなさいまし、大隅さん」サチ子は、僕が艇をおりると、とびつくようにそばへよってきて、「きょうの観測はうまくゆきまして、浪があって。たいへんだったでしょう」
そういってサチ子が、日やけのした頬に微笑をうかべて寄ってくると、僕は一日中の労苦を一ぺんに忘れてしまうのだった。
「サチ子さん。よろこんでください。きょうは相当著しい海底地震を記録することができましたよ。まったく愕きましたね。この辺の海底には、ひっきりなしに小地震が起っているんです」
「まあ愕きましたわね。それで、その海底地震がなぜ起るかという結論が、もうおつきになったの」
「いや、どういたしまして。その方の結論は、わが研究所本部で総がかりで議論して
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