らぬが、ふとなにかの物音で、僕は睡りからさめた。意識がはっきりしてくると、僕の隣で鞄の金具の音がしているのに気がついた。僕はなにげなく、その音のする方を見た。
轟博士が、後向きになって、しきりに鞄のなかを整理しているのが見えた。その多くは手垢で汚れきったような論文原稿らしい書類であった。なおも僕は、博士の手さきをみていると、そのうちに博士は鞄のなかに書類を一通り重ねあわせ、いったん鞄の蓋をやりかけたが、そのとき急に忘れていたことを思いだしたように、ポケットをさぐると、大型のピストルを一挺とりだし、右手にぐっと握った。
それをみて、僕は心臓の停まるほどおどろいた。なんだか今にもそのピストルの口が僕の方にきそうな気配を感じたのだ。
だがそれは杞憂におわった。博士はピストルを、書類の下にそっとさし入れると、鞄の蓋を閉じて、ぴーんと金具をかけた。僕はほっと胸をなでおろした。
孤島の怪事
汽船は、僕たちを花陵島におろすと、あわてくさったように、沖合を出ていった。
花陵島の荒涼たる風景は、僕の気持をさらにすさまじいものにさせねば置かなかったようだ。
それと反対に、あれから
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