背中がひやりとしてきた。「すると先生、火星の生物というのは、わが地球の人類よりはずっと知恵があるのですね」
「もちろんのことじゃ。だからわれわれ地球上の学問は、火星の生物の存在を無視して研究をすすめても無駄じゃ。君の専攻している地震学にも、火星の力を勘定にいれておかないと、とんだまちがった結論を生みだすことになろう」そういって博士は、額のうえににじみでた汗をハンカチーフで拭いながら、「いや、わしは思わず喋りすぎた。もうこのへんで口を噤むことにしよう。いずれ花陵島の観測の結果、こんどこそ人類のびっくりするようなものを見せることができるかもしれない。そのときはまた、興味ある話を君にも聞かせるよ」
 それっきり博士は、もう喋らなくなってしまった。そして博士はお尻の下に敷いていた書類をとりだすと、海の方をむいてしきりに読みだした。
 僕は、せっかくの話相手を失ったので、仕方なしに博士のとなりで、ぎらぎらする海上をながめながら、さっきからの妖《あや》しい火星の秘密を頭のなかで復習を始めた。だがそのうちにいつとなく睡気を催し、うとうとと仮睡《かりね》にはいったのであった。
 どのくらい睡ったのかし
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