めじゃ。あの輸送路が東西南北から[#「東西南北から」は底本では「西南北から」]集った交叉点においては、わが人類の頭では到底考えられないほどの巨大な力が集るのじゃ」
「そんなに巨大な原動力を、火星の生物はどういうことに使うのですか」
「そのことじゃ。その使い道が問題なのじゃ。わしの観測によれば、彼等は目下のところ輸送路の建設を完成してはいないようじゃ。輸送路の完成の暁には、それをどんなことのために使うのか、それはわしにも見当がついていない。ただこういうことはいえると思う」といって、そこで轟博士はちょっと深刻な顔をして、「あのような巨大な原動力の集中は、火星のなかでの生活だけに使うものとしては、とても桁はずれに多きすぎるということじゃ。わしの計算によると、火星の生物が一千年かかっても使いきれないほど巨大なる原動力が一瞬間にあの交叉点に集められる仕掛になっている。それを考えると訳はわからないながらも、背中がぞくぞくと寒くなるのじゃ」
 そういった轟博士の顔色は、この暖気のなかに、まるで氷倉から出てきた人のように青ざめた。
 不可解なる謎を秘めた火星の「運河」!
 僕もなんだか博士につられて、
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