給え」
 書庫は地階十三階にあって、隊長室の後隣の部屋になっていた。桝形は帆村たちの傍から一秒間も目を放そうとしなかった。
「どうも変だね。始めの方には、隊員名簿の中に碇曳治の名がない、途中から以後には彼の名がある。これはどういうわけかね」
「はははは。そんなことかい。名探偵にそれ位のことが分らないのか」
「最初の隊員総数三十九名。帰還したときには四十名となっている。碇曳治は、始めつけ落されている。なぜだろう。隊長たる君が勘定から洩らしている隊員。ああ、そうか碇曳治は密航者なんだ。そうだろう」
「もちろん、そういうことになる」
 桝形は冷静を装って、事もなげに言った。帆村はそれには目もくれず、立上って別の書類を棚から下ろして来た。それは「航空日誌」であった。彼は最初の頁から、熱心に目を落として行った。
「あった。○八月三日(第三日)総員起シノ直前、第五倉通路ニ於テ密航者ヲ発見ス。随分簡単な記録だ。それから後は……」
 帆村は頁の上を指先で突きながら、先をさぐって行った。同じ日の終りの方に、もう一つ記事があった。
「各部長会議ハ食糧、空気、燃料等ノ在庫数量ヲ再検討シタル結果、隊員ヲ今一名
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