こにこ顔になって、親しげな声をかけた。
「きょうは、この前の火星探険のことについて少し教えてもらいたくてね」
帆村は、ぶっきら棒にいった。
「何だ、仕事かい。まさか新しい利益配当の提訴事件じゃないんだろうね。もう隊には、儲けはちっとも残っていないんだから」
「そんなことじゃない。或る探険隊員について知りたいのだ。碇曳治という人がいたね。新聞やラジオで、宇宙の英雄ともちあげられた男だ」
「ははあ、又縁談の口かね。あの男ならもう駄目だよ。七年越しの岡惚れ女と今は愛の巣を営んでいるからね」
「谷間シズカという女のことをいっているんだね」
「おや、もうそれを知っているのか。それでないとすると、どういう事件だい」
「僕の仕事は依頼者のために秘密を守る義務を負わされているのでね。……ところであのときの記録|綴《つづり》を見せて貰いたいんだ。いつだかもすっかり見せて貰ったが、書庫へ行った方が、少しは君たちの邪魔にならなくていいだろうね」
桝形は苦がり切っていた。図々しい探偵の要求をはねつけることはむずかしい。
「隊員といえども閲覧禁止という規定にしてあるんだが、まあ君だからいいだろう。こっちへ来
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