から覗《のぞ》いている両眼に、きつい恐怖の色があった。
 服装は、頭に原子|防弾《ぼうだん》のヘルメットを、ルビー玉の首飾、そしてカナダ栗鼠《りす》の長いオーバー、足に防弾靴を長くはいている。一メートルばかりの金属光沢をもった短いステッキを、防弾手袋をはめた片手に持っている。
 要するに、事件にまきこまれて戦慄《せんりつ》している若い女が訪れたのだ。特に教養があるというわけでもなく、さりとてうすっぺらな女でもなさそうだ。
 老探偵は、その女客を迎えて、応接間に招じ入れた。
 女は毛皮のオーバーを脱いだ。その下から真黄色なドレスがあらわれた。黄色いドレスと紅いルビーの首飾と蒼ざめた女の顔とが、ロマンのすべてを語っているように思った。探偵は、自分の脳髄の中のすべての継電器《リレー》に油をさし終った。
「どうぞお気に召すままに……。で、どんなことでございますかな、あなたさまがお困りになっていることは……」
 帆村は、黄金のシガレット・ケースを婦人客にすすめた。
「困りましてございます」客は煙を一口吸っただけだった。「……あたくし、恐ろしい顔の男に、あとをつけられていまして……。なんとか保護し
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