見ている前で加えられたが、それは光るスポットで表示された。――その七つの曲線は、彼の健康を評価する七つの条件を示していた。脈搏《みゃくはく》の数と正常さ、呼吸数、体温、血圧、その他いくつかの反応だった。鏡の前に立てば、ほとんど瞬間にこれらのものが測定され、そしてスポットとして健康曲線上に表示される仕掛になっていた。
「ふうん、今朝はこのごろのうちで一番調子がよくないて。そろそろ心臓も人工のものにとりかえたが、いいのかな」
 ――いや、こんなことを一々書きつらねて、彼の昭和五十二年における生活ぶりを説明して行くのは煩《わずら》わしすぎる。あとはもうなるべく書かないことにしよう。特別の場合の外は……。
 帆村が、人工肺臓もとりかえ、朝の水浴《みずあ》びをし、それから食事をすませて、あとは故郷の山でつんだ番茶を入れた大きな湯呑《ゆのみ》をそばにおいて、ラジオのニュース放送の抜萃《ばっすい》を聞き入っているとき、カユミ助手が入って来て、来客のあるのを告げた。そしてテレビジョンのスイッチをひねった。
 映写幕の上に、等身大の婦人の映像があらわれた。
 ハンカチーフで顔の下半分を隠している。その上
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