じゃないですか。こいつは頗《すこぶ》る大切な事項なのに……」
「そんなことは訊くまでもないさ。これから行って、あのひとにまといついているその男の顔を実際にわれわれの目が見るのが一番明瞭で、いいじゃないか」
「呑気《のんき》だなあ」
「ムサシ君。事件依頼者からは、なるべくものを訊かないようにするのがいいのだよ。こっちの手で分ることなら、それは訊かないに越したことはない」
「そうですかねえ」
甥の蜂葉十六は不満の面持だ。
「君も一緒に行ってくれるだろう。私はあと五分で出掛ける。もちろんあの恐ろしい顔の男を見るためにだ」
「僕はもちろんお供しますよ、おじさま」
甥は急に笑顔になった。
水銀地階区三九九――が谷間シズカと碇曳治との愛の巣の所在だった。
老探偵は甥と肩を並べて、その近くまでを|動く道路《ベルト・ロード》に乗って行き、空蝉《うつせみ》広場から先を、歩道にそってゆっくり歩いていった。
このあたりは五年ほど前に開発された住宅区であったが、重宝《ちょうほう》な設計のなされているのに拘《かかわ》らず、わりあいに入っている人がすくなかった。それは場所が、最も都心より離れていて、不便
前へ
次へ
全35ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング