な感じのするためであったろう。しかし時間の上からいえば、高速度管道を使えば、都心まで十五分しかかからないのであったが……。みんな性《せっ》かちになっているんだ。
 探偵は、ゆるやかな坂道をあがっていった。この坂の上が三九九の一角で、そこにアパートがあるはずだった。最近のアパートは目に立たぬ入口が十も二十もあって、人々は自分の好む通路を選んで入ることが出来る。――それだけに探偵商売には厄介《やっかい》だった。
「来たね。ふうん。これはあのあたりから入りこむのがいいらしい」
 老探偵の直感は、多年みがきをかけられたものだけに凄いほどだった。甥は、いざとなれば、すぐ伯父の前へとび出して、相手を撃ち倒すだけの心がまえをして、しずかについて行く。
 地中に眼鏡橋が曲ってついている――ような通路がついて、奥の方へ曲って入りこんでいる。が、天井にはガス放電灯が青白い光を放って、視力の衰えた者にも十分な照明をあたえている。
 老探偵が、急に立停った。心得て甥が伯父の背越しに頤《あご》をつき出す。
「七つ目のアーチの蔭に――ほら、身体を前に乗り出した」
「見えます、僕にも。ああッ。……実にひどい顔!」

前へ 次へ
全35ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング