わろうとは、夢にも思わなかった。これは決して、余が小胆《しょうたん》のあまり自ら進んでロイヤル・オーク号から降りたわけではなく、只今では、生きている人間は、全部|該艦《がいかん》から締め出しを食っているのだから誤解のないように。だから、余も亦《また》こうして生きている限り、あの艦には乗れないのである。余は、無理やりに退艦《たいかん》させられしまった。しかも一時間十五分というものを、夜の北海《ほっかい》の、あの冷い潮《しお》に浸《ひた》っていたのであるから、まことに御念の入ったことであった――という訳は、わがロイヤル・オーク号は、昨夜、スカパフロー港の底に沈んで了《しま》ったのである。
 余は、なんにも覚えていない。あのとき夜の甲板《かんぱん》へ、新鮮なる空気を吸いに出たことまでは覚えているが、あとは知らない。そうそう、大爆発があったことは知っている。とたんに、艦《ふね》は大震動《だいしんどう》したっけ。甲板を走っていく水兵が、「独軍の飛行機の空襲だ。爆弾が命中したぞ」と叫んでいたことを、今思い出した。しかしプロペラの音は全然しなかったのである。仍《よ》って案ずるに、独軍では、無音《むお
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