くれる。本艦上には、シュペー号に撃沈された英国船九隻の船長その他の幹部乗組員が収容されているが、彼等とて、むしろ厚遇《こうぐう》されているようだ。今しも彼等が、甲板を散歩しているのが見える。あ、今、何かがあったらしい。甲板上を走る水兵の眼の中にも、何かあったらしい事が、よく見える。艦橋には、艦長以下|幕僚《ばくりょう》たちが全部集って、しきりに双眼鏡《そうがんきょう》で覗《のぞ》いている。また英国船を見つけたのであろうか。それにしては、すこしものものしい緊張ぶりだ。
 そこへ余の姿を求めてヴォード少尉が駈けてきた。
「あ、海野さん。海戦が始まりかかっています。相当大きな音がしますから、貴下《あなた》も船底《せんてい》へいかれた方がよいと思います」
 余は、胸をはって、即座《そくざ》に断った。
「いや、ここにいます。どうか僕にはお構《かま》いなく、大きな音を出して闘っていただきたい。一体《いったい》、敵は何者ですか」
「英国の重巡《じゅうじゅん》エクセターです」
「エクセターなら、平気じゃないですか。向うは八|吋砲《インチほう》、こっちは十一吋砲……」
 そういっているところへ、モルトケ少尉がヴォード少尉を呼びに来た。
「おい、ヴォード少尉、すぐ二番砲塔へ」
「よし来た。だが、僕は補充隊員だぜ」
「所《ところ》が、急に敵が殖《ふ》えたのだ。軽巡《けいじゅん》アキレスとエジャクとの二隻が加わろうとしている」
 二人の少壮士官《しょうそうしかん》は、一しょに駈《か》けだしていった。それを合図《あいず》のように、シュペー号の主砲六門は、一せいに火蓋《ひぶた》を切った。
 あっ、命中だ! 英艦エクセター号の艦側《かんそく》から、濛々《もうもう》たる黒煙《こくえん》があがる。余は……(編集部より申す。海野《うんの》ニセ武官《ぶかん》のブンタデレステ沖の海戦報告は、無電によってここまでは、本社と連絡がとれて、受信中のところ、ここでぷつりと電波は切れました。多分氏自慢の携帯用送信機が英艦の砲弾のため破壊されたのでしょうと思いますが、生々《なまなま》しい報告を生々しいところで失い、甚だ残念ですが仕方がありません。御諒承《ごりょうしょう》を乞《こ》う。尚《なお》、海野ニセ武官の冥福《めいふく》を、読者諸君と共に祈り上げる次第であります)
(×月×日、モンテヴィデオ、先払《さきばらい》電報)
 マタ、フネハシズンダ。コレデ三ドメダ。ヨハ、ラングスドルフカンチョウニタイシ、イサギヨクコウガイニイデ、イギリスカンタイトタタカウヨウススメタガ、カンチョウイワク、「ウンノサンニノラレタウエカラハ、ドウセ、ハヤカレオソカレチンボツノウンメイニアルノダカラ、ムシロハヤイトコ、ジバクトキメマシタ」シュペーゴウノリクミイン四〇〇メイハ、ドイツキセンタコマゴウニウツリオエタ。ヨ、ヒトリハ、チンボツオトコナルヲモッテ、ケイエンセラレ、タコマゴウニハノセラレズ、チョクセツモンテヴィデオコウニリクアゲセラレタリ。イノチビロイノイワイニ一パイヤリタシ、スグ○オクレ、ウンノ。



底本:「海野十三全集 第10巻 宇宙戦隊」三一書房
   1991(平成3)年5月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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