「この種の実験は、気ながに待たなくてはならない。急ぐな。あせるな」
 博士は、自分自身に、そういって聞かせるのであった。それにしても、待つことのあまりに長すぎるため、博士はだんだんあせってくるのだった。
「きょうこそは。きょうこそは。三千万ボルトを越える雷よ。わが塔上に落ちよ」
 博士のとなえることばが、呪文《じゅもん》のようにひびく。
 もし待望の三千万ボルトを越える超高圧の空中電気がこの塔に落ちたら、この研究所の大広間の天井につってある二つの大きな球形《きゅうけい》の放電間隙《ほうでんかんげき》に、ぴちりと火花がとぶはずであった。
 雷鳴は、いよいよはげしくなる。
 塔は、大地震にあったように揺《ゆ》れる。
 そのときだった。
 ぴちん。ぴちぴちん。
 空気を破るするどい音。ああ、ついに火花間隙に電光がとんだ。
 いよいよ超高圧の雷雲が、塔の上へおしよせたのだ。
「今だ」
 博士は、足もとに出ているペタル式の開閉器を力いっぱい踏みつけた。
 と、その瞬間に、ガラス箱の中が、紫の色目もあざやかな光芒《こうぼう》でみたされた。皿の上の人造生物を、左右両脇より包んでいるように見える曲
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