た。
(だれだろう、死刑囚のそばへ近づくのは)
執行官は迷った。死刑執行をすこし待って、あの怪影をしらべ、もしも、死刑に関係のない者だったら、追っぱらうべきであろうか。それとも、このまま死刑を執行してしまうべきであろうか。
それにしても、補助官は、どこになにをしているのであろうか。
執行官は、やっぱり時刻が来たときに死刑を執行した。彼が、死刑囚の足をささえている台をはずしたのである。その瞬間、死刑囚のからだはすうーッと下に落ち、そして途中でとまって、ぶらんとさがった。
怪影はそれまで見えていたが、死刑と同時に、ぱッとうしろへさがって、小屋のかげに消えた。
それからあとは何事もなかった。
絞首にきめられてある時間がたった。
執行官は、手はずのとおり、死刑囚の死体をおろすように信号を送った。
すると宙ぶらりんになっていた死体は、すーッと下へおりていって、やがて穴の中に見えなくなってしまった。
(なあんだ、補助官は、やっぱり死刑台の地下室に待っていたのか)
執行官は安心した。
執行官と教誨師《きょうかいし》は、そこで顔を見あわせたが、さっき死刑囚に近づいた奇妙な影について
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