《つな》をかけたり、死んだあとは死骸《しがい》をひきおろしたりする執行補助官、もう一人は教誨師《きょうかいし》であった。
 すでに用意は終り、死刑囚火辻は絞首台の上にのぼり、補助官によって首に綱の輪がかけられていた。それに向かって、十メートルはなれて、執行官と教誨師が並んで所定の席についていた。おりから東の空からのぼりはじめた月が明かるく、この死刑場を照らした。塀《へい》のそとにすだく虫の声も悲しく、凄惨《せいさん》な光景であった。
 立ちあいの執行官は時計を見ながら、命令の時間になるのをまっていた。もう残すところ一分あまりであった。
 執行官は、さっきから補助官の姿が見えないので、どこにいるのかと軽い疑問を持っていた。死刑の時刻は、あと三十秒ほどにせまった。
 そのときであった。目かくしされ首に綱をつけ、しずかに塀をうしろにして、立っている死刑囚のそのうしろの塀に横あいから近づく一つの人影《ひとかげ》をうつした。
「あッ、あの人影は……」
 教誨師が、低い声で叫んだ。


   阿弥陀堂《あみだどう》


 執行官もその人影を見た。頭部のたいへん大きな、肩はばの広い、大きな人影であっ
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