皿もない。そのガラスの皿の上にのっていたぶよぶよした灰色の塊《かたまり》――谷博士の作った「人造生物《じんぞうせいぶつ》」も、どこへ行ったか、見えなかった。そしてあたり一面に、ガラスや金属やコンクリートの破片が乱れ散っていた。
「ああ、あたたかくなったと思ったら、こんどは非常にねむくなった。ねむい、ねむい」
しゃがれた声が、壁ぎわから聞こえて来た。博士がいったのではない。
「ああ、ねむい。しばらくねむることにしよう。どこか、ねむるのに、いい場所はないだろうか」
壁の穴のそばに立っていたグロテスクな機械人間《ロボット》が、がっちゃん、がっちゃんと動きだした。するとその中から、ねむがっているしゃがれ声が聞こえたのであった。
それは、あたかも、機械人間が魂《たましい》をもって生きていて、そのようにつぶやいているように見えた。
怪しい機械人間だ。
がんらい、機械人間というものは、人間からの命令を受けて、ごくかんたんな機械的な仕事をするだけの人間の形をした機械だった。この場合のように、人間と同じに、感想をのべたり、生活上のことを希望したりするのは、ふつうでは、ありえないことだった。
「
前へ
次へ
全194ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング