い声は、ぶつぶつ不平をならべたてた。
 と、また煙の中から、黒光《くろびか》りのするものがとんできた。鋼鉄の腕だった。鋼鉄の足だった。それから鋼鉄の胴中《どうなか》だった。それらのものは、ひきつづいて、ぽんぽん放りだされた。壁にあたってはねかえるのがある。天井《てんじょう》にぶつかって、また下へどすんと落ちるものがある。つづいてまた、鋼鉄の首が、砲弾のようにとび、ごろごろところげまわる。
「あ、あった。これなら、はいれるぞ。ありがたい……」
 しゃがれ声が、ほんとにうれしそうにいった。
 がっちゃん、がっちゃん、がっちゃん。
 煙の中で、町の鍛冶屋《かじや》のような音が聞こえはじめた。かーん、かーんと鋲《びょう》をうつような音もする。つづいて、ぎりぎりぎり、ぎりぎりぎりと、ワイヤ綱《づな》が歯ぎしりをかむような音もする。
 そうこうするうちに、煙がかなりうすくなって、音をたてているものの形が、おぼろげながら分かるようになった。それは室内の煙が壁の大きな穴から、だんだんと外に出ていったためである。
 煙の中に、大きく動いている、人間の形をした者があった。
 それは谷博士ではなかった。博士
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