《だいれっぷう》は万年雪をひらひらと吹きとばし、山ばなから岩石をもぎとった。
 このとき、谷博士は、研究所の塔の下部にある広い実験室のまん中に、仁王立《におうだ》ちになって、気がおかしくなったように叫んでいる。
「雷《らい》よ、もっと落ちよ。もっと鳴れ。稲妻《いなずま》よ。もっとはげしく光れ。この塔を、電撃でうちこわしてもいいぞ。もっとはげしく、もっと強く、この塔に落ちかかれ」
 博士は、腕をふり、怒号《どごう》し、塔を見あげ、それから目を転じて、自分の前においてある大きなガラスの箱の中を見すえる。
 その大きなガラスの箱は、すごく大きな絶縁碍子《ぜつえんがいし》の台の上にのっている。箱の中には、やはりガラスでできた架台《かだい》があって、その上に、やはりガラスの大皿がのっている。そしてその大皿の中には、ひとつかみの、ぶよぶよした灰色の塊《かたまり》がのっている。どこか人間の脳髄に似ている。海綿を灰色に染め、そしてもっとぶよぶよしたようにも見える。なんともいえない気味のわるい塊である。
 しかもその灰色のぶよぶよした塊は、周期的に、ふくれたり、縮んだりしているのであった。まるでそれ自身
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