れをふり落とそうと、しきりに頭を振ったが、それは空《むな》しい努力であった。収波をあつめる収波冠は、博士の頭部にくいついたように、しっかり取りついていて、はなれなかった。
 それからX号は、みずから長い電線を引っぱり収波受信機の接続を一つ一つ仕上げていった。
「これでいい。これでわしの知りたいことは、みんな分かるのだ。さあ、それでは谷博士に質問をはじめるかな」
 そこでX号は、谷博士に質問をはじめた。
「こういう問題がある。この研究所の機械を使い、谷博士の研究ノートの示すとおりにして、人造人間を作りあげた。ところがその人間は眠ったようになって、目がさめないのだ、どこに欠点があるか、それを考えなさい」
 と、X号は椅子にしばりつけた谷博士に向かってたずねた。
 すると谷博士は、口をかたく結んで、それは絶対に答えないぞという態度《たいど》を示した。しかるに、そのとき、山形警部の押しこめられている函の、上部についている高声器から、はっきりした声がとびだした。
「それには二つの欠陥《けっかん》がある。一つは、研究ノートにまだくわしく書きいれてないが、その人造人間に高圧電気で電撃《でんげき》をあたえることが必要なのだ。それがために、この研究所には百万ボルトの高圧変圧器《こうあつへんあつき》があるが、百万ボルトでは十分効果をあげない場合がある。もっともいい方法は、落雷《らくらい》の高圧電気を利用することだ。しかしいつでも雷雲《らいうん》が近くにあるわけではないから、おいそれとすぐにはまにあわない場合がある。もう一つの欠点は、人造人間の脳髄を作る研究がなかなかむずかしいことだ。百個作っても五個しか成功しない。だからむしろほんとうの人間の脳髄を移植《いしょく》する方がらくである。おそらくこんど造った人造人間の脳も失敗作なのであろう」
 谷博士の頭の中に浮かんだ考えが、そのまま山形警部の声になって、部屋中にひびきわたった。
 X号はよろこんだ。谷博士は、くやしがって歯がみをし、身もだえして、椅子をがたがたいわせた。
 そんなことで、X号は手をひかえるようなことはなかった。つぎの質問に移っていった。
 すると博士の頭の中に浮かんだ回答が、山形警部の声で出て来た。こんなことを繰《く》りかえしたものだから、博士はついに悶絶《もんぜつ》してしまった。
「ははは、弱いやつだ」
 X号は笑って、脳波受信の実験を一時中止することにした。
 しかしさしあたり、彼が知りたいと思っていたことは、知ることができたので、こんどは、例の死んだようになっている人造人体を生かす実験にとりかかった。
 彼は男性人造人間の頭蓋《ずがい》をひらいて、その中につめてあった人造脳髄を切開《せっかい》して取りだした。
「きれいなんだが、やっぱりこれではだめなのか」
 彼は、それをガラス器に入れて、棚《たな》の上においた。
 それから彼は、函の中から山形警部を引っぱりだすと、まるで魚を料理するように警部の頭蓋をひらいてその脳髄を取りだし、急いでそれを人造人間の頭の中に押しこんだ。そして手ぎわよく頭蓋を縫《ぬ》ってしまった。このへんの手術の手ぎわはじつにみごとなものだ。
「それから高圧電気で、電撃を加えるのだ」
 山形警部の脳を移植した人造人間のからだは電圧電気室にはこび入れられた。
 百万ボルトの高圧変圧器のスイッチは入れられ、おそろしい火花が飛んだ。
 電撃が、人造人間の上に加えられたが、その結果は失敗だった。どういうわけか、その途中で、人造人間のからだが、ぷすぷす燃えだした。強い電流が、人造人間のからだの一部に流れたためであった。
「これはいけない。困ったぞ、困ったぞ。どうすればいいか」
 X号は、しばらくうなっていたが、そのうちに心がきまった。彼は、一部分黒々と焼けた男性の人造人体を電撃台から引きおろすと、電気メスを手にとって頭蓋をひらき、さっき移植した山形警部の脳髄を取りだした。そしてそれを持って、大急ぎで、もう一つの女体の人造人間のところへ走った。
 彼は、非常な速さでもって、今引っぱりだして来た警部の脳髄を女体の人造人間の頭蓋の中へ移植した。そしてほっと一息ついた。
「こんどは、うまくやりたいものだ」
 ふたたび電撃が行われた。
 そのあいだ、さすがのX号も、深刻《しんこく》な顔つきになって今にも脳貧血《のうひんけつ》を起こしそうになった。が、こんどは、女体からは黒い煙もあがらず、その電撃操作《でんげきそうさ》は成功し、女体はかすかに目をひらいて、台の上で動きはじめた。
「しめた。こんどは成功したらしい」
 X号は、大よろこびで、スイッチをひらくと、電撃台にとびついて、生《せい》を得た女体人造人間を抱きおろした。
「よう、みごとだ、みごとだ。もしもしお嬢さん。わしの話が分かる
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