にせ博士の超人間X号を発見することはできなかった。またその所在もわからなかった。
ひょっとしたら、誘拐された谷博士がここにいるのではないかと、それも気をつけて調べたのであるが、博士の姿もなかった。
そして事実は、さっきのX号のひとりごとでお分かりのとおり、X号も博士も最地階にひそんでいたのである。
警官隊は、小人数の見張《みは》りの者をのこして、あとはみんな、ふもとの町へ引きあげていった。
X号の新計画《しんけいかく》
「はっはっはっ、みんなあきらめて帰ってしまった。そのうちに、見張りのやつらも引きあげていくだろう」
X号は、窓から外をのぞいていて、あざ笑った。
それはいいが、X号の方にも、重大な問題があった。それは、また、いつ警官隊がおしかけてくるかも知れず、うるさくてしようがない。そしてこんな死刑囚|火辻軍平《ひつじぐんぺい》の病気だらけのからだを借りていると、いつ頓死《とんし》するか知れたものではないし、そうかといって、まただれかのからだを手に入れ、その中にはいったとしても、また追いかけられるにきまっている。そこで彼は、そういうことの絶対にないからだを手に入れるとともに、そのからだでいれば世の中へ顔を出しても、絶対に怪しまれず、疑われずにすむものでなくてはならないと考えた。なお、そのうえにお金がどんどんもうかって、思うように仕事ができ、そして不自由のない生活ができることが、必要だ。
これだけの条件を満足させるには、いったいどうしたらいいだろうか。
頭脳のいいX号のことだから、半日ばかり考えると、一つの案ができた。
それはどんなことかというと、人造人間《じんぞうにんげん》をつくることである。
ここでいう人造人間とは、機械人間のことではない。機械人間は、外がわも、中も主として金属でできているが、人造人間というのは、人造肉、人造骨などを集めて組みあわせ、その上に人造|皮膚《ひふ》をかぶせ、だれが見ても生きているほんものの人間と、すこしもちがわないからだをしているものをいうのだ。
もちろん、そのからだの中にかくれている内臓《ないぞう》のあるものや、神経系統《しんけいけいとう》のものなどは金属で作ってもいいのだ。外から見て、へんだなと気づかれなければいいのだから。
「よし、それを作ることにしよう」
なにしろ、この研究所では、谷博士が長年にわたって、人造皮膚や人造肉や人造骨の製作を研究して成功し、それからさらに研究は深くなって人造|細胞《さいぼう》を作りあげた。また、人造神経系統を作ることにも成功した。それからそれらをまとめて人造|脳髄《のうずい》ができたのだ。そして最後に谷博士独特の新製品であるところの、いわゆる「電臓《でんぞう》」が完成されたのだ。そしてX号の正体こそ、その「電臓」にほかならないのである。そういうわけだから、この研究所にある設備を利用すれば、人造人間をこしらえることはそんなにむずかしくないはずである。
X号はまず手はじめに、試験的に二つの人造人間をこしらえることにした。甲号は男体《だんたい》であり、乙号は女体《にょたい》に作りあげることになった。
仕事は、さっそくはじめられた。谷博士の研究ノートを見、そして番号をひきあわせてその器械器具を出して動かしてみれば、人造人間製作のやりかたは、だんだん分かって来るのだった。X号はこの仕事にかかるとき、谷博士に手つだえと命令したが、博士は首をふって、頑強《がんきょう》にこばんだ。それでX号はやむなく彼ひとりで仕事をはじめたのであった。
その仕事は一週間かかった。
X号としては、ずいぶんの時日がかかったように思ったが、もし人間がすると、それが谷博士であっても、すくなくともその三倍の日数がかかったことであろう。
とにかく、二体の人造人間ができあがった。いや、できあがったというには、まだ早い。人造人間の形だけができあがったという方が正しいであろう。
男の方は四十歳ぐらいの、肩はばのひろいりっぱな体格の人間だった。女の方は、十六七歳の少女だった。
そこまではうまくいったが、その先の仕事にX号は困って、さじをなげだした。すなわち、人造人間は、形だけは本物の人間とちがわないくらいにみごとにできあがったのであるが、それは死んだようになっていて、呼吸もしなければ、目も動かさず、もちろん歩きもしなかった。
「これは困った。その先のことは、谷博士の研究ノートにも、あまりくわしく書いてないんだから、いよいよ困った」
困ったままで、おいておくことはできない。そこでX号は最地階に監禁してある谷博士の前へやって来て、その問題をくわしく話をし、それから先どうすればよいかについて博士に教えを乞《こ》うた。
X号の方で頭をさげんばかりにして博士に頼んだの
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