山君たち、さっき調べた旧式の制御台のところへ、もう一度わしを連れていってくれたまえ」
 少年たちは、博士のいうとおりにした。しかしその博士が、ますます狼狽《ろうばい》の色を見せてさわぎたてるので、だんだん心細くなってきた。ことにだれが見ても古ぼけて旧式の制御台を、博士がたよりにしているのが、少年たちを一そう心細くさせた。
 旧式の制御台のところへ博士を連れてくると、博士は目が見えないことを忘れたように、機械を手さぐりして、電源につないだり、スイッチを入れたり調整をしたりした。
「計器を見てくれたまえ。一番上に並んでいる計器の右から三番めの四角い箱型の計器を見てくれたまえ。その針は、どこを指《さ》しているか」
「百五十あたりを指していますよ」
「百五十か。すると百五十ワットだ。これだけ出力があるなら、十分に機械人間を制御できる。さあ、見ておれ。おい君、今わしが仕事をはじめる。君たちは、機械人間のところへ行って、あいつがどうなるか、見ていてくれ。あいつが、しずかに立ちどまって、死んだように動かなくなるはずだ。そうなったら、すぐわしに報告してくれ。よいか」
 そういって博士は、制御台のパネルについている一つのスイッチを入れ、それから舵輪《だりん》のような形のハンドルを握って、ぐるぐると廻しはじめた。
「どうじゃな。まだか。これでもか」
 博士は、蒼白《そうはく》な顔に、ねっとりと脂汗《あぶらあせ》をうかばせて、しきりに機械人間の制御を試《こころ》みている様子。
 がっちゃん、がっちゃん、がっちゃん。
 にぎやかな足音をたてて、奥から機械人間が出て来た。手にはダイナマイトの箱をぶらさげている。少年たちは、それを見て胆《きも》をつぶした。あぶない。いつ爆発するやら、たいへんだ。どうしたらいいのか。少年たちはおどろきのあまり、呼吸が苦しくなり、口もきけなかった。
 何も見えない谷博士ばかりは、熱心に制御台の前でハンドルを廻しつづけている。
 が、博士にも、機械人間の足音が耳にはいった。
「おや、まだとまらない。ふん、こっちへ歩いて来たな。もう機械人間はここらで停止しなければならないんだが、はてな……」
 すると、博士の耳のそばで、気味のわるい声がした。
「さっきから、からだの中が、もぞもぞとこそばゆくてならないと思ったら、君がこの旧式の制御器で、制御電波《せいぎょでんぱ》を出しているんだね」
「だれだ。そういう君は何者だ」
「私だよ。さっきも君が聞いてくれたね。わけのわからない私だよ。この足音を聞いたら、分かるだろう」
 機械人間は、がっちゃんがっちゃんと荒々しく足ぶみをしてみせたが、そのときあいている方の左手をのばしたて、がーんと制御台のパネルを叩《たた》きやぶった。
「うわーッ」
 博士はとびのいて、その場にころぶ。
「こんどはどこへ行こうか。ここはもう興味をひくものがない」
 機械人間は、笑うでもなく怒るでもなく、ひややかにそういって、ひとりずんずんと階段をのぼっていった。
 井上と羽黒の二人は、勇気をふるいおこして、怪しい機械人間のあとを追いかけた。
 怪物は、階段をあがると、例の全壊《ぜんかい》に近い大広間の壁の大穴をくぐって、外にでていった。そしてどんどんと早足になって、山道を下の方へとぶように行ってしまった。
 やがて怪人の姿は、雨あがりの木のまにかくれて見えなくなった。


   巨人《きょじん》ダム


 三角岳《さんかくだけ》をくだっていったところに、有名な巨大なダムがあった。
 このダムは、山峡《さんきょう》につくった人工の池をせきとめている。それは巨大な鉄筋《てっきん》コンクリートで築《きず》いた垣《かき》であった。水をせきとめるための巨大な壁であった。
 三角岳の大ダムと呼ばれていた。
 このダムによって、せきとめた水が、高いところから下に落ちるとき水力発電するのだった。水はこの広い山岳地帯《さんがくちたい》を縫《ぬ》って麓《ふもと》へ流れるまでに十ケ所でせきとめられ、そこに一つずつ発電所がある。つまり連続して、十ケ所で水力発電をするのだった。
 この大じかけな発電系に、水を一年中いつでも十分に送れるように、この三角岳の大ダムはものすごく多量の水をたくわえている。
 この大ダムは、日本一の巨大なものであった。しかしこのダム工事は、建設のとき非常に急がされたので、少々失敗したところがあった。そんなことがなければ、このダムは今より三割も多くの水を、たくわえることができたであろう。
 この大ダムの西の端に、一つの建物がある。ここには、ダムの水位《すいい》を測定《そくてい》する人たちが詰めている。そのほかに、ダムを見まわる監視員《かんしいん》も、この建物を足がかりとして出はいりしている。
 だが、いつもの日は、この建物の
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