・青・緑・白の五色の光りが研究所を包み、もうもうとしたきのこ形の噴煙《ふんえん》が、建物の屋上から、大空高く巨大な翼《つばさ》をひろげたのである。
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……」
署長は、谷博士、山形警部それから勇敢な五少年の死をいたんで、思わずお念仏《ねんぶつ》をとなえたのだった。
宇宙航空船《うちゅうこうくうせん》
ところが、谷博士も、山形警部も、五人の少年も、けっしてこの爆発で最期をとげたわけではなかった。
谷博士は、機械人間の操縦装置が破壊された時、屋上からヘリコプターによる脱出を考えたのである。
ところが、屋上へ来て見たときには博士もすっかりおどろいた。というのは、X号がサルになった谷博士を脳波受信機でいじめながら作っていた、宇宙航空船ができあがって、そこにおかれてあったからだった。
これは、総軽金属製、世界最大の飛行機の二倍も大きく、原子力によるロケット装置で活動し、時速三千キロ、月世界はおろか、火星ぐらいまでなら往復できる、おそるべき性能を持った航空船であった。
X号はこれによって、世界中をふつうの飛行機や、高射砲のとどかない高空から、原子爆弾で爆撃しようと計画し、すでに今日、その試験飛行にとびたつばかりで、第一の原子爆弾を東京に落とそうと、その中につみこんであったのだった。
入口に番をしていた機械人間を、火焔放射器《かえんほうしゃき》で倒すと、七人はまんまとその中にしのびこんだ。
何しろ、三階建てのホテルぐらいは十分ある大きさだったから、山形警部や少年たちは、大分まごついたが、博士は道に迷いもせず、その操縦室にたどりついた。
「しめた。機械はすぐ動くように準備ができてあるし、原子爆弾もつみこんである。これならば、もうこちらの勝ちだ。X号もこうなったら運のつきだぞ」
博士は小おどりして喜んでいた。
「さあ、さっそく出発して、空中から研究所を爆撃しよう。まあ、なんにしても、このやっかいな、機械人間のきものはぬごうじゃないか」
七人はほッとしたように、首をとり、手をとり、足をとって、機械人間ならぬ、もとのからだにかえったのである。いや、もとのからだといっても、五人の少年はともかく、博士はサルのからだのままだったし、山形警部は女のからだのままだったが――
「先生、まだ手術はしてくださいませんね」
警部は、小わきにかかえている自分のもとのからだを見て、心配そうにたずねた。
「いまはそんなことをしているひまはないよ。もう少し待ちたまえ」
博士は機械をいじりながら、それどころではないというように、いらいらした調子で答えた。
「でも、それでは、夏ですから、からだがくさってしまいますよ」
なるほど、警部にとっては、それこそ天下の一大事である。
「それが心配だったら、冷蔵室へ入れておきたまえ」
「この中には、冷蔵室はあるのですか」
「もちろんだよ。この下の二階の中央のM17と書いてある部屋だ」
「ああ、それでやっと安心した。では行って来ましょう」
山形警部は、あぶら汗《あせ》を流しながら、自分のからだを背負って、えっちらおっちら歩きだした。こういう危急存亡《ききゅうそんぼう》の時でなかったら、それは吹きだしたくなるような、珍妙《ちんみょう》な光景であったろう。何しろ、女学生みたいな若い娘が大の男の裸のからだを背負って歩いているのだし、この精妙な操縦装置の前に坐って、機械をいじっているのがサルなのだから――
「よし、機械の調子はしごく良好《りょうこう》だ。それではだまって爆撃するのも卑怯《ひきょう》だから、X号に最後の宣告《せんこく》をくだしてやろう」
博士はマイクロホンに向かって、あの宣告を行ったのである。
「さあ、出発だ」
博士は始動装置《しどうそうち》のボタンを押した。ところが、機械の調子が少しへんなのか、航空船はなかなか飛びあがろうとはしなかった。
「おや、どうしたんだろう」
博士もさすがにあわてていた。あちらを直し、こちらをいじって、どうやら故障の原因はのみこめたようであったが、いざ出発となるまでには、七八分の時間がかかった。
「では出発」
博士はふたたびボタンを押した。それとともにこの三百トンのロケット航空船は、流星のように中天へ舞いあがったのだった。
X号の行方は
宇宙航空船は電光のように大空を横切って、まっすぐに上へあがって行く。博士の目の前のテレビジョン装置には、研究所や三角岳の建物が豆粒《まめつぶ》のように小さくうつったが、それもたちまち見えなくなって、関東平野がまるで地図のように、浮かびあがって来たのだった。
「先生、ものすごいスピードですね」
「ああ、あれが富士山ですか」
少年たちは、今までの命がけの冒険も忘れて、大陽気に、まるで遠足
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