た。それだから、階段やエレベーターにも怪しまれず、ほかの機械人間にも気づかれずに、ここまでやって来ることができたのである。
――谷博士は、まっかなにせ者、X号が化けていたことがわかった。山形警部は、戸山少年たち五名と協力し、ほんものの谷博士を救いだして、研究所の中心部を占領し、機械人間を活動停止させた。即刻《そっこく》警官隊を出動させて、研究所の建物全部を占領せよ。われわれは全力をあげてX号を追跡する――
こういう短波放送が、くりかえしくりかえし、電波に乗って流れて行った。まもなく、
――大手柄を感謝す。武装警官百五十名は、いまトラックに分乗して、三角岳に向かった。ひきつづき、X号の逮捕に努力せられたし。署長――
という返事があったのである。
だが谷博士は、ふきげんだった。
「逮捕など、そんな生やさしいことが、X号に向かってやれるものか。X号を殺すか、われわれが殺されるか。食うか食われるかの争いなのに、そんなことでは、どうするんだ」
そして、博士のことばのとおり、X号の反撃は、またたくうちにはじまったのである。
X号反撃
その時、扉のそばに立っていた少年が大声で叫んだ。
「先生、たいへん、たいへんですよ。倒れていた機械人間《ロボット》が、また動きだしました」
「そんなばかな……」
と答える博士の声も、とたんに上ずっていた。
しかし、これはけっしてうそでもなんでもなかったのである。部屋の中に倒れている機械人間こそ、頭の受信装置を、火焔放射器《かえんほうしゃき》で焼ききられているので、動きだしはしなかったが、廊下にひっくりかえっていた、無傷《むきず》の機械人間は、むくむくと起きあがりはじめたのである。
どこからか、電波が送られはじめたのだ。ここの送波装置《そうはそうち》は、全部スイッチを切ってしまってあったのだから、どこか気のつかない所にあった、予備の操縦装置を、X号が動かしはじめたのだろう。
先頭に立った機械人間は、恐ろしい勢いでこちらへとびかかって来た。さいわいに火焔放射器がものすごい火焔をふきだして、その機械人間は、ウワァーッといって倒れたが、つづいて一人、また一人――
五人の少年は、戸口にならんで、火焔放射器で火の幕を作った。そしてどうにか、その先頭部隊だけを倒すことができたが、残りの機械人間が、全部活動をはじめたとなると、これはどんな武器を持って襲撃してくるか。多勢に無勢、はじめの奇襲《きしゅう》こそ成功したが、正面からの戦争となると、なんといってもこちらは不利だといわねばならない。
「山形君、大急ぎで地階へおりてくれたまえ。そして発電装置を破壊するんだ。ぼくはそれまで、この操縦装置を動かして、向こうの電波を妨害《ぼうがい》するから――」
警部の機械人間は、壁のボタンを押して、エレベーターへ飛びこむと、さっそく地階へおりて行った。博士の機械人間は、操縦盤の前に坐ると、しきりにダイアルを動かしはじめたが――
「先生、また機械人間の一隊が、向こうにあらわれましたよ。こんどは何か手に黒い手榴弾《てりゅうだん》のようなものを持っています」
戸山少年の機械人間は、ついに悲鳴《ひめい》をあげたのである。
「その机の前に、怪力線《かいりきせん》の放射器がある。それを向こうに向けて、ボタンを押したまえ」
博士はけんめいに叫んだ。
向こうにあらわれた機械人間は、手に手に手榴弾のようなものを持ち、こちらへ向かって、投げつけようとしたが、戸山少年が機械のボタンを押すやいなや、目に見えぬ怪力線が放射されたのであろう。
機械人間の手に持っていた爆薬《ばくやく》は、大音響《だいおんきょう》を立てて爆発し、機械人間の一隊は、こっぱみじんに吹きとばされたのである。
「先生、愉快《ゆかい》、愉快ですね。これさえあればもう大丈夫。もう何人、機械人間があらわれても平気ですよ」
機械人間の破片《はへん》は、こちらへもものすごい勢いで飛んで来たのだから、もし博士や少年たちが、機械人間の中へはいっていなければ、その爆風や断片で、大けがをしたにちがいない。しかしさいわいに、なんの負傷もしなかったのだから、少年たちはしきりに愉快がっているのだった。
「それはいいが、困ったことになってしまったよ」
博士の声は震《ふる》えていた。
「どうしてです」
「いまの爆風と破片で、こちらの操縦装置がこわれてしまったんだよ。もうこちらからはなんの電波も送れないんだから、機械人間の活動を妨害する方法はないんだ。いまに毒ガスでも使われたら、こちらには防ぐ方法がない。早く山形君が、発電装置をこわしてくれないかぎり、戦いはこちらの負けだよ」
博士のことばは悲壮《ひそう》であった。ところが、たのみに思う山形警部の機械人間は、悄然《しょうぜん
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