らず、むざんな最後をとげていたのである。
といっても、人間とちがうのだから、絞《し》められたり、刺しころされたり、頭を割られたりしているのではない。
火焔放射器《かえんほうしゃき》で、頭の中を焼ききられて、身動きできなくなっていたのであった。これらの機械人間は、X号のように高級の電臓を持っているのではなく、ただ簡単な動作と会話ができるだけであって、それを操縦しているのは、地上の七階にある、自動調節装置《じどうちょうせつそうち》からであった。この機械から特殊な電波を一つ一つの機械人間に送って、この研究所に働いている千人あまりの機械人間を、自由に動かしていたのである。
そんなものだから、こうして頭の中にある、電波の受信装置《じゅしんそうち》を焼ききられてしまうと、機械人間は、鉄屑《てつくず》のかたまりのようになって、なんの役にも立たないのである。
「おや、いったいだれが、こんないたずらをしたのだろう。これはけしからん。あの子供ら、なかなかあじなことをしおるわい」
X号は口の中で、ぼそぼそとつぶやいた。いまこの階へ、命令をうけて、やって来たばかりのZ27号も、頭をとかされて、完全にのびてしまっていたのであった。
「おまえらはさっそく、ここをくまなく捜査して、この下手人《げしゅにん》をさがしだせ。しかし、ゆだんはするな。ゆだんをすると、Z27号みたいなことになるぞ。まだ犯人は遠くへは行かぬはずだ」
X号は大声に叫んだ。
さて機械人間は大急ぎで四方へ散って、血まなこであちらこちらを探しまわった[#「まわった」は底本では「まった」と誤植]が、この時には、この階には、人間はおろか、機械人間の影さえ見あたらなかったのである。
「先生、もうどこにもなんにも見つかりません。きっと上へ逃げたんでしょう」
一人の機械人間が帰って来て報告した。
「いや、そんなはずはないよ。エレベーターも、階段も、機械人間以外にはぜったいにあがりおりしたものはないといっている。まさか、消えてなくなるわけはないではないか」
一人の機械人間が、ふんがいしたようにことばをかえした。
「おかしいな。この階で鍵のかかっている所はないか」
「サルの部屋に鍵がかかっていて、その鍵がどうしたのか見えません」
「ははあ、分かった。あいつらはその部屋へ逃げこんで、中から鍵をかけおったな。みんなこの扉を叩《たた》きこわせ」
「はい」
二三人の機械人間は、扉に体あたりをしていたが、さすがの機械人間の怪力《かいりき》にも、この厚い鉄の扉は、びくともしなかった。
「相手は手ごわいぞ。火焔放射器を持っているらしいから、よし、この部屋の通気孔《つうきこう》から、毒ガスを注ぎこめ」
X号はいまは、かんかんに怒っていた。一人の機械人間は、さっそくその準備に飛びだしたが、その時X号は、ふと思いたったことがあった。
「さてはあの子供らめ、谷博士としめしあわしてのしわざだな。いよいよ博士も生かしておけんぞ」
X号は、あの谷博士のとじこめられていた部屋へとびこんだのである。
サルは語らず
「いや、なんだ、まだ博士はどこへも逃げてはいないじゃないか」
さすがの超人X号も、まだ博士とサルの入れかえには気がつかなかったのである。
「やい、谷博士。きさまはよくも、あの小わっぱどもとしめしあわせて、このおれに手むかおうとたくらんだな。もうこのままにはしておけんぞ。八つざきにしてやるから、かくごしろ」
ところが、サルはそのことばの意味も分からないように、鉄棒をゆすぶってキャーッと叫んでいただけである。
「そんな手で、わしをだまそうとしたって、ききめはないぞ。さあ、小僧たちに何をおしえた」
「キャーッ、ウォーッ」
あいかわらず、サルは返事をしないのだった。
「いわないなら、いわんでもいい。いま聞いてやるからそう思え」
X号は、壁にかかってあるレシーバーを耳にあて、壁のボタンを押した。この檻全体が一つの脳波受信機《のうはじゅしんき》になっていて、中にいる谷博士の考えていることは、ちゃんとこのレシーバーから聞こえて来るのである。ところがその時は、キャーッという叫びと、ズーズーという雑音《ざつおん》がはいるだけで、かんじんの博士の考えは、何一つX号に分からなかった。
「はてな。こんなはずはないが。どうしたのかな。機械の故障かな。それとも博士がいつのまにか、ほんとうのサルに退化《たいか》したんかしら」
さすがのX号も、この時は、思わず首をひねったのである。
その時、うしろの廊下から、一人の機械人間があわててとびこんで来た。
「毒ガス注入《ちゅうにゅう》終りました」
「よし、それではすぐに圧縮空気《あっしゅくくうき》を吹きこんで、毒ガスを追いだせ」
「はい」
消毒作業はまもなく終った。
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