《まゆ》をひそめて、その機械人間を荒々《あらあら》しく叱《しか》りとばした。
「でも、先生、これは天下の一大事ですよ。あの五人の少年が、どこかへ姿を消しました」
「なんだと」
 さすがにX号も顔色をかえて、スープの中へハムエッグスをぽたりと落とした。
「そればかりではありません。実験室の二つ向こうの部屋から実験室の中がうつるような、望遠装置がしかけてありました。きっとあいつらのしわざにちがいありません」
「ちくしょう」
 X号は、ばりばりと歯ぎしりし、お盆をひっくりかえして、寝台の上へむっくと立ちあがった。
「さては、あのがきめら、わしの正体を見やぶったな。ゆうべ電気をかけていたところをのぞいて、それで恐ろしくなって逃げだしたな。さあ、こうしてはおられぬわい。さっそくつかまえて、一寸《いっすん》だめし五分《ごぶ》だめし、なぶり殺してやらねば、こっちの気がおさまらないわ」
 目を逆立《さかだ》て、口を耳までひろげて、どなり立てるX号の姿は、まるで赤鬼のようにものすごかった。
「見張りはなにをしているんだ。この建物から夜のあいだに出はいりすれば、かならず電波探知機《でんぱたんちき》で、非常警戒のベルが鳴るはずなのに、機械は故障でも起こったのか」
「いいえ、機械にも何も異状《いじょう》はありませんし、見張りの機械人間も、だれの姿も見うけなかったと申しております。窓も戸口も内がわから鍵がかかっていて、逃げだした形跡《けいせき》はどこにも残っておりません」
「よーし、それではあいつらは、まだこの研究所からは逃げだしていないな。きっとわしの姿を見てこわくなって、どこかへかくれて、青くなって、がたがた震《ふる》えているのにちがいあるまい。そんなスパイを生かしてかえしては、せっかくのわしの計画も水の泡《あわ》だ。研究所の中を隅から隅まで、捜索《そうさく》して、あいつらの居所を探しだせ」
 X号はかんかんになって、しきりにどなりたてたのである。
 まもなく、研究所の内部には、けたたましいサイレンの音が鳴りひびいた。
 ――非常警報《ひじょうけいほう》発令、非常警報発令――
 研究所にやって来た五人の少年は、恐《おそ》るべき敵のスパイであった。全力をあげて、彼等の行方《ゆくえ》をさがしだせ。万一ていこうしたならば、即座《そくざ》になぐり殺してさしつかえない――
 このような恐ろしい命令が、ラウドスピーカーから、研究所の建物中にひびきわたった。もちろん、この研究所の中には、ほかに人間はだれもいないのであるから、この命令はこの研究所ではたらいている機械人間にあてて出されたものである。
 そのうちに、機械人間Z16号から報告があった。X号の部屋のラウドスピーカーから、このようなことばが聞こえて来たのである。
「Z16号報告。実験室から地下工場へ通ずるエレベーターの報告によりますと、ゆうべおそく、五人の子供は、地下十六階へおりたそうであります。ただしその後あがって来た形跡はありません。報告おわり」
「さては、あいつら、わしのあとをば、つけおったな。どうするかおぼえておれ」
 X号は手をふり足をふって、部屋の中をあばれまわっていた。そしてマイクロホンに近づくと、
「地下十六階の全員に命令。五人の少年は、ゆうべそこへおりていったことが判明した。おそらくまだそのままそこに残っているものと思われる。隅《すみ》の隅まで調べだして、わしの前までひきずりだせ」
 このようなおそろしい命令をくだしたのである。
 ところが、地下十六階からは、ぜんぜんなんの報告もなかった。


   地底の闘い


「地下十六階、地下十六階、Q37号はどうしている。Q28号はどうした……」
 X号はマイクロホンに向かって、どなりたてたが、地下十六階からは、ぜんぜん何も聞こえて来ない。
 X号も、さすがに不安になって来たのだ。
「Z27号、おまえはいまどこにいる」
「はい、地下十二階におります」
 ラウドスピーカーから機械人間の声が聞こえた。
「地下十六階から、なんとも返事がないんだが、どうしているのか、おまえ行ってしらべてくれ。ゆうべ、五人の少年が、しのびこんだような形跡があるが、谷博士と連絡をとられたら一大事だからな」
「はい、行ってまいります」
 だがいくら待っても、Z27号からもなんの返事もなかった。
「ええ、なんとたのみがいのないやつらだ。そんなことなら、わしが行くわ」
 X号は、こうして待ってはいられなくなったのであろう。護衛の機械人間五人ばかりをひきつれて、地下十六階へおりて行ったのであった。
 ところが、これでは返事がなかったのも道理《どうり》である。地下十六階は、もともと一番底の階なので、倉庫があるだけで、そこで働いている機械人間の数もすくなかったが、その機械人間が一人のこ
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