は、谷博士の手によって死刑囚火辻の遺骸《いがい》から取りだされ、そして活動を停止され、博士の冷蔵室の中に、厳重に保存されてあるのだ。
 火辻の遺骸は、あのとき氷室検事の一行が引きとっていった。
 これでもうX号の活動は完全にとまってしまったわけである。
 谷博士は日ましに元気になっていった。そして博士があのとき氷室検事にちょっともらしたとおり、このあたりの村々を栄えさせるための空前《くうぜん》の大事業に手を染めたのだった。
 まず、道路の修築《しゅうちく》が始まった。
 山を切りとり、崖《がけ》を補強《ほきょう》し、傾斜《けいしゃ》のゆるやかな道路を作っていった。どんなせまいところでも六メートルの幅《はば》を持っている道路をこしらえた。重要な道路は幅が三十メートルもあった。
 こんな道路を作るために、大じかけの土木工事《どぼくこうじ》が行われた。資材も、びっくりするほどたくさんいった。道路とともに、橋もこしらえねばならず、トンネルも掘らねばならなかった。
 こういう仕事を、谷博士が、全部自分で引きうけてやった。
 もっとも、博士が一人でやったのではなかった。働いたのは、博士が製造した機械人間《ロボット》たちだった。
 谷博士に化けていたX号も機械人間を作って売りだした。今、谷博士も、同じようにたくさんの機械人間を製造した。どっちも同じことをやった。しかしこんど谷博士の作りだした機械人間は、非常によく働き、そして正確に行動した。からだの大きさも、ずっと大きかった。顔は同じような機械的な円い同じ目鼻をつけた顔であったが、博士の作った機械人間は、滑稽《こっけい》でとぼけた童子《どうじ》のような顔つきをしていた。だから村人たちから親しみの目で見られた。
 こうして道路ができあがると、こんどは土地の人のために、すばらしい家を建ててあたえた。
 地上は五階もあり、地階が三階あるのが普通であった。耐火耐震《たいかたいしん》の構造を持っているばかりか、冬季には寒がらないで住んでいられ、家の中は春秋と同じようにらくに仕事や生活ができるように、べんりで能率のいい暖房装置《だんぼうそうち》が建物についていた。
 農民たちや炭焼きや猟師《りょうし》たちが喜んだことは、いうまでもない。
 この大建築事業も、たくさんの機械人間が使われ、博士はいつも指揮《しき》をとっていた。
 その次には耕地整理《こうちせいり》が行われた。それと同時に、すべての農具も農業も、機械化された。つまり、耕地は一度みんな一つにして考え、次にそれを機械農具で耕作するのにつごういいように再分割《さいぶんかつ》された。だから、まがった畦《あぜ》を持った耕地はなくなり、また妙な複雑な形をした耕地もなくなった。
 だから耕作は二重三重にらくになり、収穫《しゅうかく》は桁《けた》ちがいに増大した。農民たちの働く時間はすくなくなって、自分が自由に使える時間がたくさんできた。その時間を、農民たちは、楽しく音楽の練習に使ったり、読書に利用したり、工作に興《きょう》じたりした。
 ある家では、そんなにたくさんの家族が、耕作にあたらなくてもいいというので、若い人たちを都会へ出して、工業方面で働かせることにした家もある。
 水をひくこと、太陽熱を利用すること、電気栽培《でんきさいばい》のこと、通信機を備えつけること、運搬用《うんぱんよう》の自動車やヘリコプターを備えつけることなど、これを一つ一つ説明していったら、たいへんな紙数がいるので、ここにはくわしくのべないことにする。
 谷博士は、村がすっかりりっぱになったあとで、こんどは研究所を改築した。それはこれまでのものにくらべて、たいへん大きなものであった。地上から上まで、二十四階もあった。地階は十階だというが、それよりもっと深いといううわさもあった。そしてこの建物は異様《いよう》な形をしていて、だれも一度見ると忘れられない。しかし、村民の中には、こんどの研究所の建物の形が、どうも気味がわるくてならない、やっぱり前のきちんとした塔の方が、感じがよかったという者もあった。
 とにかく、この塔を中心にして、この三角岳地方は、都会にもまだ見られないほどのすごい機械文化都市が建設されたのであった。そしてなおおどろくことは、これらがわずか半年のあいだに完成したのであった。
 谷博士は、毎日五百体の機械人間を使ったということだが、もちろんそれは原子力を利用して、仕事の分量《ぶんりょう》も、ふつうの人間には見られないほど大きかったというものの、とにかく、この谷博士の仕事の手ぎわをまねできる者は、ちょっとなかろうと思われた。
 博士は、それだけで仕事をやめはしなかった。最新の科学技術を利用して、奇抜《きばつ》な計画を進めていった。それはどんなものであったか、章をあらためて
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