とき、気が変になった娘と思われていた少女姿の山形警部が、いろいろと研究所内の事情について、よい参考になることをしゃべった。ことに、最地階の出入り口の錠《じょう》のことと、それがその階上のどんなところへつづいているかということ、この二つはたいへん参考になった。
(なぜこの娘に山形警部のたましいがのりうつっているのか分からんが……)と警官たちの多くは、そう思った。
(しかしとにかく、今しゃべっているのは山形警部のたましいにちがいない)
 へんてこな気持だった。
 でも、会議が進むにつれ、みじかい少女服を着た娘の発言は重視《じゅうし》され、そして彼女はだんだん山形警部としてのあつかいをうけるようになった。
 会議が終ると、女体《じょたい》の山形警部は、食事をとってそのあと、ねむいねむいといって、寝床《ねどこ》をとってもらって、その中にもぐりこんだ。
 そのあとは、本部の中は、怪少女の話でもちきりだった。若い警官も年をとった警官も、それぞれにいろいろな想像をして、議論をたたかわした。だがはっきりした証拠《しょうこ》は、どこにもないのだ。なにしろ、山形警部は依然《いぜん》として行方不明である。山形警部の肉体は今どこにどうしているのか、それが今も発見されないままなのだ。それが分からない以上、なぜ山形警部のたましいが、あの少女にのりうつったのか、それは解けない謎《なぞ》だった。そして決行の夜が来た。
 研究所を見張っている警官隊からは、たえず報告が来る。目下、研究所の地上の各階では、機械人間《ロボット》が働いている。彼らは、研究所の動力や暖房《だんぼう》のことをまちがいなく管理していた。また、機械人間製造の方でも、たくさんの機械人間が働いていた。しかし生産された機械人間は、このところ売れゆきがよくないので、倉庫にたまる一方であった。夕方になると、製造工場はお休みとなる。あとは研究所の日常の生活を担当している機械人間だけが、用のあるときだけ働いている。研究所の灯火《とうか》は、夜のふけるにつれ、不用な部屋の分は一つ一つ消されていき、だんだんさびしさを増すのであった。夜中になって、東の山端《やまはし》から、片われ月がぬっと顔を出した。それを合図にして、氷室検事がひきいる捜査隊は、研究所をめがけて、じりじりと忍びよった。この隊には、五少年も加わっていたし、それからまた、女体の山形警部も
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