ていた一同は、いよいよこれは気が変な娘だわい。とほうもない奇怪味《きかいみ》のあるでたらめをいうものだと、あきれてしまった。
氷室検事だけは、心をすこしばかり動かした。この娘はたしかに変に見える。しかし彼女が娘らしくない、がらがら声でしゃべっているのを聞いていると、どこかに山形警部らしい話しかたのひびきもある。また、この娘のいっていることがらは、ほとんど信じられないほど奇怪であるけれど、辻《つじ》つまが合っている。気の変な娘が辻つまの合っている話をするわけはない。すると、この娘は気が変であるといえないことになりはしないか。この答えはすぐに出ない。氷室検事の心は重かった。
そのとき戸山少年が、検事の前へ出て来て、
「検事さん。この女のひとがいっていることは、ほんとだと思いますよ。谷博士が、研究所の最地階《さいちかい》は一等重要なところで、だれもいれないことにしていると、ぼくに話したことがありましたが、この女の人のいうことは合っていますよ」
戸山君をはじめ五少年は、捜査隊にしたがって、この竹柴村の本部に寝とまりしていたのである。さっきからのさわぎに、少年たちは寝台をけって起き、奇妙《きみょう》な少女を見物していたのであった。
「それは、たしかだろうね」
検事は、するどい目つきで、戸山君を見つめた。
「たしかですとも、それから、今この女のひとが話したところによると、その研究所の最地階には、三人の人がいたことが分かります。その三人とは、この女の人と、例の死刑囚火辻に似た怪人、それからもう一人は、目に繃帯《ほうたい》をした谷博士だと、この人はいっているのです。ああ、谷博士は、怪人のために病院から連れだされ、研究所の最地階に幽閉《ゆうへい》され、どんなに苦しめられていることでしょうか。博士が責めころされないまえに、一刻《いっこく》も早く救いだしてください。もちろんぼくたちも一生けんめいお手つだいいたします」
「戸山君のいったとおりです。谷博士を早く助けてください」
と、他の少年たちも検事の前に出て並んだ。
月光の下に
五人の少年たちが、熱心に谷博士を救いだすことを検事に頼んだので、氷室検事の決心はようやくきまった。
「よろしい。それでは今夜半を期して、研究所の最地階へ忍《しの》びこむことにしよう」
検事は、部下を集めて、手配のことを相談した。
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