脳波受信の実験を一時中止することにした。
しかしさしあたり、彼が知りたいと思っていたことは、知ることができたので、こんどは、例の死んだようになっている人造人体を生かす実験にとりかかった。
彼は男性人造人間の頭蓋《ずがい》をひらいて、その中につめてあった人造脳髄を切開《せっかい》して取りだした。
「きれいなんだが、やっぱりこれではだめなのか」
彼は、それをガラス器に入れて、棚《たな》の上においた。
それから彼は、函の中から山形警部を引っぱりだすと、まるで魚を料理するように警部の頭蓋をひらいてその脳髄を取りだし、急いでそれを人造人間の頭の中に押しこんだ。そして手ぎわよく頭蓋を縫《ぬ》ってしまった。このへんの手術の手ぎわはじつにみごとなものだ。
「それから高圧電気で、電撃を加えるのだ」
山形警部の脳を移植した人造人間のからだは電圧電気室にはこび入れられた。
百万ボルトの高圧変圧器のスイッチは入れられ、おそろしい火花が飛んだ。
電撃が、人造人間の上に加えられたが、その結果は失敗だった。どういうわけか、その途中で、人造人間のからだが、ぷすぷす燃えだした。強い電流が、人造人間のからだの一部に流れたためであった。
「これはいけない。困ったぞ、困ったぞ。どうすればいいか」
X号は、しばらくうなっていたが、そのうちに心がきまった。彼は、一部分黒々と焼けた男性の人造人体を電撃台から引きおろすと、電気メスを手にとって頭蓋をひらき、さっき移植した山形警部の脳髄を取りだした。そしてそれを持って、大急ぎで、もう一つの女体の人造人間のところへ走った。
彼は、非常な速さでもって、今引っぱりだして来た警部の脳髄を女体の人造人間の頭蓋の中へ移植した。そしてほっと一息ついた。
「こんどは、うまくやりたいものだ」
ふたたび電撃が行われた。
そのあいだ、さすがのX号も、深刻《しんこく》な顔つきになって今にも脳貧血《のうひんけつ》を起こしそうになった。が、こんどは、女体からは黒い煙もあがらず、その電撃操作《でんげきそうさ》は成功し、女体はかすかに目をひらいて、台の上で動きはじめた。
「しめた。こんどは成功したらしい」
X号は、大よろこびで、スイッチをひらくと、電撃台にとびついて、生《せい》を得た女体人造人間を抱きおろした。
「よう、みごとだ、みごとだ。もしもしお嬢さん。わしの話が分かる
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