そのあいだにも、X号が何を考え、何を計画しているか、それを知ろうとして、目が見えないながらも、しょっちゅう気をくばっていた。
博士は、ある日、この研究所の建物の中で急にさわがしい声がし、多くの足音が入りみだれ、階段をかけあがったり、器物が大きな音をたてて、こわれたりするのを耳にした。
そのときは、博士のそばにX号がいなかったが、やがてX号は、ぜいぜい息を切って博士のそばへもどってきた。
「ああ、苦しい。せっかく死刑囚のからだを手に入れてこうして使っているが、このからだは悪い病気にかかっていて、心臓も悪いし、腎臓《じんぞう》もいけないし、いろいろ悪いところだらけだ。これじゃあ思うように活動ができやしない。ああ、苦しい」
X号は腹を立てて、寝椅子《ねいす》の上にころがり、ふうふうぶつぶついうのだった。
博士は、隅《すみ》っこの破れ椅子に腰をうずめ、息をひそめて、X号のつぶやきに聞き耳をたてている。
「きっとやって来るだろうと思ったが、やっぱりやって来やがった」と、X号はひとりごとをつづける。「このあいだのちんぴら少年どもが、警察に知らしたのにちがいない。あの少年どもはうるさいやつらだ、早くかたづけてしまいたい。おれをにせものだといっぺんで見やぶりやがった」
X号はぷりぷり怒っている。
遠くで、自動車のエンジンをかける音がした。つづいて警笛《けいてき》がしきりに鳴る。
「ははあ、とうとう警察のやつらは、捜査をあきらめて引きあげていくな。ばかな連中だ。ここに最地階があるとは知らないで、引きあげていくぞ、もっとも、やつらも手こずったことだろう。ようやく研究所の中へおし入ってみると、いるのは金属で作った機械人間《ロボット》ばかりで、ふつうの人間はひとりもいない。何をきいても、『私は知りません』の返事ばかり。ははは、困ったろう」
三角岳の研究所に谷博士と名のる、にせ者がいて、怪《あや》しい工場をつくっていることを、五人の少年たちが東京の検察庁へ知らせたので、警官隊がここへ乗りこんできたわけである。ところが、中にはたくさんの機械人間ががんばっていて、警官隊を中に入れまいとした。そこで衝突が起こった。
だが引きさがるような警官隊ではない。ついに、すきを見つけて、そこからはいってきたのだ。それから家《や》さがしをして、この建物のあらゆるところを調べてまわった。ところが、
前へ
次へ
全97ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング