をなげるように、おれたちになげつけるんだからなあ。おそろしい大力だ。あんなものがあたりや、こっちのからだは、いちご[#「いちご」に傍点]をつぶしたように、おしまいになる」
「なんだい、あの化物の正体《しょうたい》は」
「さあ、なんだろうなあ。まっ黒だから、お不動《ふどう》さまの生まれかわりのようだが、お不動さまなら、まさか人間を殺そうとはなさるまい。あれは黒い鬼《おに》のようなものだ」
「黒鬼《くろおに》か。赤鬼や青鬼の話は聞いたことがあるが、黒鬼にお目にかかったのは、今がはじめてだ。しかし、待てよ。鬼にしては、あいつは角《つの》が生《は》えていなかったようだぞ」
「いや、生えていたよ、たしかに……」
 村人たちのさわぎは、だんだん大きくなっていく。
 そのうちに、ふもとの村から、特別にえらんだ警官隊がのりこんで来た。この警官たちはこわれたダムの警戒にあたるつもりで来たが、犯人が意外なる大力無双《だいりきむそう》の怪物であると分かり、それから山中に出没《しゅつぼつ》するという報告を受けたので、「それでは」と怪物狩《かいぶつが》りの方へ、大部分の警官が動きだした。
 もちろん、とてもそれだけの人数の警官ではたりそうもないので、ふもと村へ応援隊をすこしも早くよこしてくれるように申しいれた。
 山狩《やまが》りは、ますます大がかりになっていった。しかしかんじんの怪しい機械人間は、どこへ行ったものか、その夜の閣《やみ》とともに姿を消してしまった。


   柿《かき》ガ岡病院《おかびょういん》


 目が見えなくなったうえに、怪しい機械人間の出現《しゅつげん》で、すっかり神経をいためてしまった谷博士は、五人の少年の協力によって、警察署の保護をうけることになった。
 三日ほどすると、すこし博士の気もしずまったので、かけつけた博士の友人たちのすすめもあって、博士は東京へ行くことになった。東京へいって、入院をして、目と神経《しんけい》とをなおすことになったのだ。
「わしの東京行きは、ぜったい秘密にしてくれたまえ。そうでないと、わしはこのうえ、どんな目にあうかもしれない。殺されるかもしれないのだ」
 と、博士はひとりで恐怖《きょうふ》していた。
 友人たちは、博士に、そのわけをたずねてみたが、博士はそのわけをしゃべらなかった。
「今は聞いてくれるな。しかし、わしは根《ね》も葉《は》
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