断《ゆだん》なくついていかせた。検事自身は博士と並んでいく。
「怪人はどこにいるのですか」
「冷蔵室の中においてある。この部屋だ。今開ける」
それは大金庫の扉のような見かけを持って背の高い金属製の大扉であった。博士は扉の上の目盛盤《めもりばん》をいくつかまわしたあとで、ハンドルを握り、ぐッとまわして手前へ引いた。すると大きな扉はかるくひらいた。中からさッとひえびえとした気流が流れだして、検事たちの顔をなでた。
「大した低温《ていおん》ではないから、そのままおはいりなさい」
博士は先頭に立ってはいった。一同は気味わるいのをがまんして、うしろに従った。
中はたいへん広く、中くらいの倉庫ほどあった。博士はずんずんと奥へはいって、そこにある小部屋の引き戸をあけて、その中へはいった。がらんとした殺風景《さっぷうけい》な棚《たな》ばかりの部屋であった。その棚の一つを博士は指さした。
「ほらこれだ。これが君たちが探していた悪漢《あっかん》の死体だ」
怪人の死体とは!
なるほど、カンバスの布《ぬの》をかぶって棚の上に横たわっているのは、人間ぐらいの大きさのものだった。博士はカンバスをめくった。
「あッ、たしかに火辻軍平《ひつじぐんぺい》だ」
死刑囚だった火辻軍平のからだにちがいない。よく見ると頭蓋がひらかれ、脳髄のはいっていたところはからっぽだ。
「わしは、責任を感じています。わしの作ったX号という電臓《でんぞう》は、死刑囚火辻のからだを利用していたのだ。電臓はこの中にはいっていたのだ」
と、博士は、空虚《くうきょ》な頭の殻《から》の中を指さした。
「そのX号の電臓とやらは、どうしたんですか」
「うむ、それこそおそるべきものなのだ。わしはX号を高圧電気によって殺した。そして今は死んでしまったX号の電臓はここにしまってある」
そういって、別の戸棚をひらいた。そこには大きなガラスの器に厳重に密封せられて、脳髄のようなものが保存されていた。
「これが、氷室君たちを悩ませ、わしを苦しめた恐るべきX号の死体なんじゃ。もうこれで諸君も天下の人々も安心してよいのじゃ」
「ふーん、これがあのおそろしい力を持っていたX号の電臓ですか」
検事たちは、目をガラス容器に近づけて歎息《たんそく》をついた。人間の脳髄によく似ている。しかし色が違う。これはいやに紫がかっている。人間の脳髄は灰色
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