生れてきたかどうか、その辺のことはすこぶる疑わしいこととなった。だが誰でも、自分が人間の母胎から生れてきたことをはっきり憶えている者はないであろう。この母の胎内から生れたのだというのは、単に誤伝に過ぎない。故に、実際は、わたくしと同様四次元の生物でありながら、うっかりしていて、それと知らないで過ぎている人が案外少なくないのではないかと思う。
 そういう人は、よく注意をしていなければならない。往来やその他で、人にどすんと突き当られたときは、一応この疑いを持って(自分の姿が、今、相手に見えなかったのではないか、自分は四次元の生物の切断面(?)ではないか)と、反省してみる要があろう。



底本:「海野十三全集 第6巻 太平洋魔城」三一書房
   1989(平成元)年9月15日第1版第1刷発行
初出:「ユーモアクラブ」
   1940(昭和15)年1月
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2007年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランテ
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