なばかばかしいことがあってたまるものかと思うが、そう出ているんだから、よういわん。わしは、きょうかぎり、人相見をよそうと思う。インチキ極まる術だ」
わたくしは、専《もっぱ》ら、溜息《ためいき》の連発をやらかしただけであった。藤田師の言は、切々として、わたくしの胸をうった。といって、ここで木下藤吉郎のように、(いや、わたくしは今に大成功をする、お前さんの占いは正しいのだ)と大見得《おおみえ》を切る元気もなかった。それよりは、なぜわたくし自身が、そうした呪《のろ》わしい人間――いや生物に生れついたかという歎きであった。と同時に、果して四次元の生物ならば、わたくしの実体は如何なる形のものであるか、ということに対する好奇心に、ゆすぶられた次第であった。
爾来、私は、隠者のような生活をしている。今も私の身体は、ときどき人間たちの眼に見えなくなるようである。不意に人に突き当られて吃驚《びっくり》することが間々《まま》あり、そのたびに、また始まったなと思う。
近頃しらべてみたところ、わたくしの父母は未詳《みしょう》である。つまり、拾われた子であることがわかった。だから、人間の母胎《ぼたい》から
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