やった。
「売った方がいいという事情があれば、売ってもいいじゃないか。それにそういうものを売るか売らないかは、僕ひとりが決めていいのだ」
「それは許せない。売ってはならない。それに……それに、もし珠子《たまこ》さんがそれを知ったら、どんなに嘆くと思う。君達の間に、きっと罅《ひび》が入るぞ、それも別離の致命傷の罅が……」
「そんなことが有ってたまるか」
「大いに有りさ。考えても見給え、珠子さんが……」
「珠子が、それを望んでいるとしたら、君はまだ何かいうことが有るかね」
「……」

   驚異の技術

 もともとこの記録は手記風に綴りたき考えであった。ところが書き始めてみると、やっぱりいつもの癖が出て小説体になってしまった。やむを得ず筆を停めて胡魔化《ごまか》した。今日こそは手記風に書きたく思う。
 うるさき鳴海三郎は、いくら追払《おいはら》っても懲《こ》りる風《ふう》を見せず、毎日のように押掛けてきては碌《ろく》なことをいわない。全く困った友だ。
 彼は、必ず決って私が両脚を売るつもりでいることを非難する。そして始めは、珠子のことを引合いに出して諫《いさ》めたもんだが、私がそれをやっつ
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