い集めてしまったのは……。貴様は、俺のものをそっくり奪ってしまったのだ。買取るならそれもよろしいが、そのように俺のものを全部集成しなくともよいではないか。殊《こと》にこれ見よがしに、俺の檻の前に立つとは怪《け》しからん。……だがな、貴様はまだ俺からその全部を奪っているのではないのだぞ。脳細胞のことよ。肝腎《かんじん》の脳細胞は、今ちゃんとこうしてこっちに有るんだ。あはは、お気の毒さまだ)
 私は腹を抱えて、ごうごうと笑ってやった。すると彼の男は、私の言葉を了解したと見え、急に恐ろしい形相《ぎょうそう》となって、私の檻へ歩みよった。
「あ、危い」
 それを後《うしろ》から引留めた者がある。おお、鳴海だ。鳴海が、何故こんなインチキ野郎についているのだろうと私はちょっと不思議に思ったが、それを解いている遑《いとま》はなかった。彼のインチキ男は、檻の鉄棒に掴《つかま》って、それを前後に揺り動かしながら、私に向って訳のわからぬ言葉で罵《ののし》った。私はむらむらと癪《しゃく》にさわって、いきなり立上ると檻の方へ飛んでいって、恨《うら》み重《かさ》なる不愉快なその男の小さな顔を両手で抑えつけ、ぐわ
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