ま》がないのだ。仕事も忙しいし、それに更に深い研究を続けておられるものだからねえ」
「じゃ、君は僕を和歌宮師のところへ連れていって会わせて呉《く》れ」
「駄目だよ、君はそういう手術を希望していないんだから、やっぱり駄目だよ」
「とにかく僕は大きな疑惑を持っている。よろしい、そういうんなら他の方法によって、この疑惑を解いてみせる」
 こんな話から、私は気拙《きまず》くなって、鳴海の宅から立去った。そして私は、更に荒《すさ》んだ生活の中に落込んでいった。
 生活と刺激のために、私はいよいよ自分の体の部品を売飛ばさねばならなかった。頸から上だけは売るまいと思っていたが、今はそれさえ護《まも》り切れなくなり、眼球を売ったり、歯を全部売ったり、またよく聴える耳を売ったりして、遂には頭髪付の顔の皮膚までも売払ってしまった。そして私は、鏡というものを極度に恐怖する身の上とはなった。全くあさましき限りである。
 顔がすっかり変ったということは、淋しきことではあるが、その代り都合のいいこともあった。それは、今まで私を知れる者が、今では私だといい当てることができなかった。鳴海さえ、町で出会っても、気がつか
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