けて、珠子がそれを望んでいることを明らかにしてやったら、それはもういわなくなった。その代りに、今度は珠子を非難し、君の脚を売ることを望むような女性は外面《がいめん》如《にょ》菩薩《ぼさつ》内心《ないしん》如《にょ》夜叉《やしゃ》だといって罵倒《ばとう》した。そればかりか、近き将来、珠子さんはきっと君を裏切って離れて行くに違いないなどと、甚だ不吉な言辞《げんじ》を弄《ろう》して、私を極度に不愉快にさせた。私は彼に対し、直ちに出ていってくれといったが、そんなことで立上るような彼鳴海ではなかった。そして今度は攻撃の目標を変え、和歌宮先生の手術にけちをつけるようなことを並べ出した。
「僕は和歌宮某がどんな手術名人か知らぬが、手術の痕《あと》はやはり醜く残るんだろう。つまり接いだ痕は赤くひきつれたりなんかして、醜怪な瘢痕《はんこん》を残すのだろうが……」
私は強く首を左右に振った。
「君は素人のくせに、和歌宮師の手術の手際にけちをつけるなんてよろしくないよ。この十年間に外科手術は大発達を遂げた。そしてその第一は、今までのような醜い痕跡《こんせき》残存が完全に跡を絶ったことだ。だから顔面整形手術の如きものが、どんどん行われるようになったのだ。しかも和歌宮師の手術は、この点では当代に並ぶものがない。実際僕は先生のところで何十人、いや何百人もの手術者を見たが、痕跡らしいものを見付けたことは只の一度もない」
「ふうん、そうかね。まあ、それならそれとしてだ、太い脚の代りに細い脚を接《つ》いだときはどうなるのか。継ぎ目の皮には痕跡が残らないとしても、太い脚に細い脚をつければ当然そこのところが段になるではないか。そうなるとやっぱり醜くないことはないね」
「君は非常識だよ。美観を一つの条件とする現代の外科手術において、そんな段になるような手際の悪いことをすると思うかね。手術の前には、回転写真撮影器による精密な測定が行われ、それからブラウン管による積算設計がなされて接合後の脚全体が資材範囲内で純正楕円函数又は双曲線函数曲線をなすように選定される。従って接合部切口における断面積も算出されるわけだから、これらの数値によって不要なる贅肉《ぜいにく》は揉み出して切開除去されるのだ。だから股《もも》と移植すべき脚との接合部はぴたりと合う。醜い段などは絶対に起り得ない。分ったかね」
「ふん、理屈は分った
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