えした。
 こんなことが三回続けられた。そして、老師の持てる盃は、一回毎に重くなり、そして三回目には、穴の入口まで酒が上ってきた。もうこの上は入らない。
 やがて朝餐《ちょうさん》は終った。
「仲々いい庭園じゃろうが。ちと散歩をしてきたらどうじゃ」
「はい。では老師先生」
 金博士は、日頃のつむじまがりもどこへやら、まるで人がちがったように師の前には従順となり、庭園へ出た。
「老師は、いらっしゃらないので……」
「ああ、わしはちょっとソノ……食事のあとで用を達《た》すことがあるので、そちだけでいってくれ」
「は。では、散歩をして参りましょう」
 金博士は、石段づたいに芝地《しばち》に下り、そして正確なる歩速でもって、向うの方へ歩いていった。
「老師、うまくいったようですな」
 卓子《テーブル》の下から、醤があの長いへちまのような額《ひたい》をぬっと出した。
「叱《し》ッ。ボーイが、こっちを向いている。いやよろしい、窓の方を向いた。……いや、醤どの、うまくいったよ。あの無類の毒酒《どくしゅ》を、まんまと三杯も乾《ほ》してしまったよ。致死量《ちしりょう》の十二倍はある。あと十五分で、金博士
前へ 次へ
全24ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング