《たいがい》の用は足りてしまう。以前、博士のところへ、新兵器の技術を盗みに来た某国《ぼうこく》のスパイは、博士のところにあった押釦ばかり百種も集めて、どろんを極めたそうである。
閑話休題《さて》、博士が、その押釦の一つを押すと、豆戦車の蓋がぽっかり明いた。博士はその穴から首を出して左右を見廻した。
「やあやあ、この豆戦車を明けようと思って、ずいぶん騒いだらしいぞ」
この豆戦車は、某国大使館の一室に、えんこしているのであった。部屋の寝台《しんだい》は、片隅に押しつけられ、床には棒をさし込んで、ぐいぐい引張ったらしい痕《あと》もあり、スパンナーやネジ廻《まわ》しや、アセチレン瓦斯《ガス》の焼切道具《やききりどうぐ》などが散らばっていた。
「この大使館にも、余計な御せっかいをやる奴が居ると見える。これだから、旅に出ると、一刻《いっこく》も気が許せないて」
そういいながらも、博士は別に愕《おどろ》いた様子でもなく、豆戦車からのっそりと外に出た。それからまた、もう一度豆戦車の中をのぞきこむようにして、押釦《おしボタン》の一つをぷつんと押した。すると、がちゃがちゃと金属の擦《す》れ合《あ》う
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