大使館の始末機関
――金博士シリーズ・7――
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)豆戦車《まめせんしゃ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)只今|仕度《したく》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かくしゃく[#「かくしゃく」に傍点]
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ずいぶんいい気持で、兵器発明王の金博士は、豆戦車《まめせんしゃ》の中に睡った。
睡眠剤《すいみんざい》の覚《さ》め際《ぎわ》は、縁側《えんがわ》から足をすとんと踏み外《はず》すが如く、極《きわ》めてすとん的なるものであって、金博士は鼾《いびき》を途中でぴたりと停めたかと思うと、もう次の瞬間には、
「さて、この大使館では朝飯《あさめし》にどんな御馳走を出しよるかな」
と、寝言《ねごと》ではない独《ひと》り言をいった。
博士が、年齢の割にかくしゃく[#「かくしゃく」に傍点]たる原因は、一つは博士の旺盛《おうせい》なる食慾にあるといっていい。
目の前に押釦《おしボタン》が並んでいた。
押釦というものは便利なもので、それを指で押すだけで、大概《たいがい》の用は足りてしまう。以前、博士のところへ、新兵器の技術を盗みに来た某国《ぼうこく》のスパイは、博士のところにあった押釦ばかり百種も集めて、どろんを極めたそうである。
閑話休題《さて》、博士が、その押釦の一つを押すと、豆戦車の蓋がぽっかり明いた。博士はその穴から首を出して左右を見廻した。
「やあやあ、この豆戦車を明けようと思って、ずいぶん騒いだらしいぞ」
この豆戦車は、某国大使館の一室に、えんこしているのであった。部屋の寝台《しんだい》は、片隅に押しつけられ、床には棒をさし込んで、ぐいぐい引張ったらしい痕《あと》もあり、スパンナーやネジ廻《まわ》しや、アセチレン瓦斯《ガス》の焼切道具《やききりどうぐ》などが散らばっていた。
「この大使館にも、余計な御せっかいをやる奴が居ると見える。これだから、旅に出ると、一刻《いっこく》も気が許せないて」
そういいながらも、博士は別に愕《おどろ》いた様子でもなく、豆戦車からのっそりと外に出た。それからまた、もう一度豆戦車の中をのぞきこむようにして、押釦《おしボタン》の一つをぷつんと押した。すると、がちゃがちゃと金属の擦《す》れ合《あ》う
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