賑《にぎや》かな音がしたかと思うと、その豆戦車はばらばらになり、やがてそのこまごました部分品や鋼鉄《こうてつ》がひとりでに集ってきて、三つのトランクと変ってしまった。重宝《ちょうほう》な機械もあったものである。
博士は、そのトランクを、部屋の隅に重ねて積み上げた。
それから、もみ手をしながら、扉を開けて、階下《した》へ下りていった。
博士はずんずん食堂へ入っていった。
「おい、飯を喰わしてくれんか」
食堂の衝立《ついたて》の蔭から、瞳の青い、体《からだ》の大きい給仕《きゅうじ》がとびだしてきたが、博士を見ると、直立不動の姿勢をとって、
「あ、王水険《おうすいけん》先生のお客さまでいらっしゃいましたね。では、只今|仕度《したく》をいたしますから、しばらくお待ちを……」
といって、周章《あわ》てて衝立のかげに引込《ひっこ》んだ。
金博士は、ぶうと鼻を鳴らして、窓ぎわに出た。広い庭園は、今は黄いろくなった芝生《しばふ》で蔽《おお》われ、ところどころに亭《あずまや》みたいなものがあるかと思うと、それに並んでタンクのようなものがあったり、なにか曰《いわ》くのありそうな庭園であった。
「どうも半端《はんぱ》な庭園じゃな。それにしても、王老師は、どうしていられるのか。おいおいボーイ君、王老師はまだこの大使館へ出勤せられないのか」
金博士が、がなりつけるようにいうと、ひょっくり衝立からとびだしてきた給仕頭《きゅうじがしら》が、
「は。王老師は、当館にお泊り中でございますが、まだお目ざめになりませんので……」
「まだ目がおさめにならぬ。はて、年寄のくせにずいぶん寝坊でいらっしゃるな」
「はい。今までこんなことはなかったのでございますが、ふしぎなことで……。只今、医師が参りまして、診察をして居ります」
「診察? 老師は、睡りながら病気に罹《かか》られたのかね。ずいぶん御器用《ごきよう》じゃ」
「いや、そうじゃございません。あまり睡りすぎるというので、一同心配のあまり、医師をよびましてございます。それに醤買石《しょうかいせき》先生も、同様一昨日の夜以来、睡り込んでいられますので……」
「なんじゃ、醤買石?」
博士の眼がぎょろぎょろと動いた。
「ははあ、読めたぞ。おい、王先生のところへ案内頼むぞ」
「は。ではこっちへどうぞ」
金博士は、給仕頭の案内で、王老師の部屋を訪れた
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