ですぞ。昨夜は失敗しましたが、今日は十分に駆使《くし》して、金博士を綺麗に始末していただきたい。大丈夫でしょうな」
「商売熱心なるその言葉、恐れ入ったぞ。今日こそは、始末機関をフルに働かして、邪弟《じゃてい》金の奴を片づけてしまうであろう」
「いや、その御言葉で、余は安堵《あんど》しました。さあ、後は十分おくつろぎ下さい。ボーイを呼びましょう」
醤は、ベッドの上に半身をねじって、枕許《まくらもと》の押釦《おしボタン》を押した。すると枕許のスタンドが、ふっと消えた。
「おや、これはボーイを呼ぶ押釦じゃなかったか」
醤は、しまったという表情で、今度は壁からぶら下っている釦を押した。すると、とたんにがらがらというしたたかな雑音が聞え、続いてアナウンサー鶯嬢《おうじょう》の声で、
「……今日十六日の天気予報を申上げます。今日は一日中晴天が続きましょうから、空襲警報に御注意下さい。明日はまた天気は下《くだ》り模様《もよう》となり――」
醤は、ふうッと猫のような叫び声を出して、部屋の隅のラジオ受信機のところまでいってスイッチを切った。
王老師は、あきれたような顔で、
「ああ、アナウンサー鶯嬢も、どうかしているな。今日は十五日であるのを、十六日といいまちがえた。近頃の若い者は、熱心が足りない」
「老師、今日は十六日ですよ。余の腹心の部下からの報告があったから、まちがいなしですわ」
「そんなことはない。醤どのは、算術を忘れてしまわれたか。十四日の次は十五日であるが、決して十六日ではない」
「いや、老師、私たちは、一日|余計《よけい》に睡ったのですよ。部下の報告から推《お》して考えると、金博士を睡らせる睡眠瓦斯《すいみんガス》が、余と老師とにも作用した結果です」
「そんなことはない」
「いや、そうです。われわれ二人は、金博士が睡ったかどうかをみるために、うっかり金博士の部屋に入ったではありませんか、あのときあの部屋に残っていた睡眠瓦斯を、われわれが吸いこんだのです。そして足かけ二日間に亘りばかばかしく睡りこんだ……」
「ああ、そうか。いや、それにしても四十幾時間も睡るわけがない。わしの調合《ちょうごう》によれば、せいぜい前後十時間ぐらいは睡るように薬の濃度《のうど》を決めたつもりじゃったが……」
「しかし結果は、このとおり四十二時間も効《き》いたのです。ねえ、王老師、失礼なが
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