に絶対信頼を置いたればこそです。然《しか》るに況《いわ》んやそれ……」
「当館の始末機関は絶対に信頼し得るものじゃったのじゃ、すくなくとも昨日までのところは……。しかしあの金博士に限り効目《ききめ》がないので呆《あき》れている。察するところ、金博士のあの素晴らしい食慾が、一切を阻《はば》んでいるのかもしれん」
「食慾なんかに関係があるもんですか。あの毒酒にしても毒蛇にしても、インチキじゃないかな」
「そんなことはない。あの毒酒では、過去において千七百十九名の者が斃《たお》れ、毒蛇では百九十三名が斃れ、いずれも百パーセントの成功を見たのじゃ。殊《こと》にあの毒蛇に咬《か》まれた者のあのものすごい苦しみ方に至っては……」
「それは余も一度見たことがありますが、実に顔を背《そむ》けずにはいられなかったです。その毒蛇と今日の毒蛇と、毒性は同じものですかね」
「毒性に至っては、今日のやつは、特別激しいものを選んだのだ。しかも今日のやつは、非常に獰猛《どうもう》で、人を見たら弾丸のように飛んでいって咬みつくという攻撃精神に燃え立っている攻撃隊員というところを五匹ばかり選《え》り抜《ぬ》いたので、それで相手が斃れないという法はないのじゃ。不思議という外《ほか》ない」
「ですが、わが部下の話では、その突撃隊の毒蛇が、金博士の腕と足とにきりきりと巻きついたのを双眼鏡でもって確《たしか》めたというとるですが、博士は別に痛そうな顔もせず、銅像のように厳然《げんぜん》と立っていたそうですぞ。本当に突撃隊ですかなあ」
「すぐとんでいってきりきり巻きつくところから見ても、それが突撃隊員だということが分る。その毒蛇が人語《じんご》を喋《しゃべ》ることが出来れば、もっと詳《くわ》しいことが分るのじゃが……」
話の最中に、醤の部下が、庭の方からあわただしく食堂の中にとびこんできた。
「委員長。たいへんです。金博士が、只今これへ現れます」
「え、こっちへ金博士が……」
「あ、あの足音がそうです」
ずしんずしんといやに底ひびきのする足音が聞える。醤は、泡《あわ》をくっているうちに、逃げ場を失い、またもや卓子《テーブル》の下にごそごそと匐《は》い込んだ。
卓子のシーツの裾《すそ》が、まだゆらゆら揺《ゆ》れている最中《さいちゅう》に、金博士がぬっと入って来た。どうしたわけか、金博士は、頭の上から肩のへ
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